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2007.03.11

85 田舎の火事騒ぎ

けたたましいサイレンを鳴らしながら消防車が次々と走ってくる.消防車の走る方向を見ると,黙々と上がる黒煙が見える.そんなに遠くない.何が燃えているのか心配で見に行った.

煙は近くの町営体育館の南側に広がっている広い野原の真ん中から出ていた.どうやら,うず高く積まれた枯れ草が燃えているようだ.すでに,四方を取り囲むように,一勢に放水が始まっている.火柱を上げていた枯れ草はあっという間に静かになって行った.

思わぬ大きな黒煙で,久しぶりの出番が来たと,消防士は張り切って,はせ参じんたが,気勢を削がれた感じである.キャンプファイヤーのように取り囲んだ野次馬も期待はずれの顔で帰り始めた.

その時,感高いサイレンを鳴らしながら,おもちゃの様なピカピカの軽消防車が息を切るように到着した.村の消防団のようだ.だいぶ,あわてている.

若者は,車から飛び降りると,給水ホースを持って,近くの小川まで走った.しかしホースが届かない.急いで車に引き返し,丸められた予備のホースを取り出して,もどかしそうにホースをつなぎ始めた.一方,放水口を持って火元に走っていたリーダーらしい若者は大きな声で叫んだ.

「早く水を出せ,火が消えてしまうぞ」.

火が消えてから到着した事になれば,消防士としては面目丸つぶれである,なんとしても火が消える前に水をかけたかったようだ.見ている野次馬からすると,火が消えたら困ると言う意外な言い方に,思わず吹き出してしまった.

リーダーは野次馬を掻き分けて,かろうじて,ちょろちょろ燃え残っている枯れ草にホースの先を向けた.放水に備えて,中腰で踏ん張って構えた.しかし,なかなか水が出てこない.

「早く水を出せ」またリーダーは叫んだ.

じっと構えているホースの先に野次馬の目が集まった.野次馬も息を殺し,一瞬,静寂が野原を覆った.突然,不意を付くように,すさまじい勢いで水が噴出した.

あまりの水圧でホースが手から離れ,大蛇のように暴れ始めた.取り囲んだ野次馬に容赦なく水が飛んだ.大蛇の首にリーダーはタックルしたが,のた打ち回る大蛇を抑えられない.暴れる水を逃れて,野次馬は声を上げながら逃げ回った.野次馬の輪は一瞬で乱れた.輪の向こう側の野次馬にも機関銃の乱射のように,ストレートな水が横に走った.

ピッカピカの軽消防車でも,すさまじい水圧がでる.その強さに驚いた若者は,あわてて車に駆け寄って水圧のダイヤルを回した.暴れまわったホースは死んだように静まった.水圧がウソだったように,ホースの口からはちょろちょろ水が出ている.どうやら始めての出動だったようだ.

リーダーは泣きそうな顔でホースを持つと,くすぶっている枯れ草に,しずくのような水をかけた.若者達の消火活動は終わった.ずぶ濡れの野原の火事場に嵐の後の静けさが漂った.

枯れ草まみれで,ずぶ濡れの若者達はうなだれて肩を落とした.その肩に悔しさが漂っていた.若者達はそれぞれ仕事を持った村の消防団である.

真面目な青年達の真剣な消火活動を思い出すたびに,今でも,おかしさと,のどかさがこみ上げて来るのである.

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