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2007.03.07

84 「華麗なる一族」

たしか,昭和48年(1973年)頃だと思うが,山崎豊子さんの力作「華麗なる一族」を引き込まれるように読んだ.34年前である.今,テレビ放映をきっかけに,ほとんど忘れていた物語を,もう一度読み返してみた.

物語は当時としては珍しい銀行の合併をテーマに,同族銀行の生き残りをかけた政,官,財の魑魅魍魎の世界に父と子,家族内の確執を絡めながら,経済ドラマと人間ドラマを鋭く描き出した作品である.どちらを中心にとらえるかは,読者にゆだねられていると思うが,タイトルの通り人間ドラマが軸になっている気もする.

ここでは経済ドラマに視点を置いて述べてみたい.

小説の舞台は新幹線,高速道路,東京オリンピックを経た昭和40年代,神戸で現実にあった鉄鋼会社倒産劇,銀行合併劇と当時既に水面下で胎動していた金融再編計画,鉄鋼再編政策を下敷きにしている.ドキュメンタリーとフィックションの間にあるような臨場感ある小説である.

小説の発表後,80年代のバブル経済の謳歌,バブルの崩壊,による90年代の金融破綻,金融再編,金融自由化,不良債権処理等の激変があったが,その震源地を34年前に描いていたと言える.同時に財閥・コンツエルの終焉も示唆していた様に思う.

年月とともに,臨場感は失われるどころか,激変の歴史が積み重なった分,何倍にも臨場感が増しているように感じた.自分の経験知識も34年前とは全く違う事も原因だと思う.

物語の内容で改めて実感した事は,金融業界は’お上’の手の中で動かされている点である.明治から現在に至るまで,この文化は引き継がれている.

官主導のもと,他人資本中心の日本的資本主義経済とメインバンク制による銀行の産業支配,公共事業への資金供給,預金による資金の収集,を銀行が担ってきたのである.数多くある銀行は金を吸い上げる為に必要だったのである.

この様なドメステックな金融業界の構造が資産バブル崩壊にる膨大な不良債権によって崩壊し,合併再編を余儀なくされた.同時に資本主義本来の姿である投資(資本投入)で動く国際経済からの立ち遅れが露呈し,世界から取り残されかねない事態を招いたのである.

これらの視点で見ると,小説の中の野心家も,魑魅魍魎の人間ドラマも,吸収合併も,むなしく,小さく見えてくる.作者も世界の動きの中で,日本の金融行政・業界の後進的村社会を指摘していた様に思う.

「白い巨塔」でも,あぶりだした医学界の舞台裏が,現在でも臨場感を増しているが,山崎豊子さんの鋭い着眼点,徹底した取材,テーマの展開,そこに人間ドラマを織り交ぜて行く力量には圧倒されるのである.他にも,不毛地帯,二つの祖国,大地の子,沈まぬ太陽など社会の暗部を実話を下敷きに鋭く抉り出している.歴史小説や推理,恋愛小説とは全く違う社会派作家の苦労を想像すると頭が下がる.

今後とも,現実を鋭く描く小説に出会いたいと思うし,それを後年にも読み返してみたい気もする.

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