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2007.10.11

118 J-SOX法の懸念

投資家の保護を目的とした金融商品取引法(証券取引法から改編)が08年会計年度から適用される,

その中で.
①業務の有効性,効率化②財務報告の信憑性③コンプライアンス④資産の保全,を目的として,経営者による財務情報に関する内部統制状況の報告,それに対する会計監査人による内部統制監査が義務付けられた.(JーSOX法)

しかし,この内部統制(INSIDE CONTROL)と言う言葉は漠然としてわかりずらい.事業目標に向けた運営の仕組み,信頼性確保に向けた業務処理・事務処理の仕組み,想定されるリスク回避の仕組み,がどのように日常の活動で作動しているか,又,それらをどう改善していくか,等は言うまでもない事であり,会社法でもガバナンスのあり方を決めているのである.

この内部統制の論議は米国で公認会計士の’内部統制が有効でない場合,監査ができない’との意見(監査論)から出たと言う.会計監査人からすれば監査の範囲,責任を狭めたいのだと思う.

そこで,今回の金融商品取引法は,財務情報の信憑性確保に向けた経営者による内部統制報告書の作成と,これに対する会計監査人による内部統制監査報告書の作成が義務化されたのである.経営品質の向上を建前として,監査人の責任を軽くし,会社側の責任を重くする事がJ-SOX法の狙いなのである.しかし,いくつか戸惑う事がある.

①会社法で言う内部統制機能の見直し,補強をどこまでやるか
②金融取引法で言う内部統制機能の見直し,補強をどこまでやるか
③上記①②をどう計画し実施するか
④経営者,監査役,内部監査人,監査人の視点,独立性をどう保つのか
⑤経営者,監査役,監査人の監査計画の差異はどうするのか(④の結果)
⑥経営者の財務に係わる内部統制報告書はどこまで開示するのか
⑦経営者の内部統制報告範囲・評価と監査人
評価の差異はどうするか
⑧監査人の監査報告(会社法)と金取法の内部統制監査報告との関係は
監査人の内部統制評価と決算数値の信憑性との関係は
⑩監査人の内部統制調査・評価の標準化と企業特性をどう調整するか
⑪上場基準,経営品質の各種ISO基準,システム監査基準,等との関係は
⑫情報システム仕様のドキュメント問題をどうするか
⑬整備に必要な工数,経費,が事業を圧迫すると判断した時の処置
⑭監査人の監査費用,監査責任がどう変わるのか
⑮そもそも企業の信頼性,信憑性,透明性にJ=SOXが役立つのか

等々,J-SOX法は必ずしも歓迎されていない風潮がある.米国の初期の論議のように,監査人の合理的保証の為だと見る人も多い.内部統制コンサル等監査ビジネスを拡大する為だとの,うがった見方もある.

金融庁では上記懸念を解消する為に,実施基準を出したようである,さらに,公認会計士協会でも監査・評価の標準的実施基準を出すはずである.数条項でしかないJ-SOX条項が,膨大な実施基準を必要とする所に,どこかに無理がある感じがする.果たして実施基準が上記懸念をクリアーしてくれるか注目したい所である.

もっと大きな懸念は,内部統制は前述の如く,経営の視点より,監査人の視点に合わされるのではないかと言う懸念である.会計監査の合理的保証の為に監査人が考える評価方法に合わせた内部統制になったりしないかと言う事である.その結果,公認会計士協会の標準が全上場企業に適用され,法の目的が浮いてしまう懸念である.

もうひとつ,JーSOX法は米国と同じように,大粉飾事件によって、出番とばかりに、識者が理想に走って、企業の箸の上げ下げまで介入し,挙句,収拾できなくなった感じがする事である.経営者の方も,経営姿勢として,形だけでも取り組まざるを得ないと思っている節がある.不正が発生した時の経営者の責任回避のアリバイ作りにもなるからである.

私見によれば,内部統制はどうあるべきか、評価をどうするか、は教科書や企業に任せればよいと思う.企業運営の問題だからである.株主は取締役にそれを委任し,監査役が監視しているからである.監査人は会計処理が会計原則に従って行われているか,専門家として検証すれば良いと思う.

何よりも,内部統制は会計原則の様なルールがあるわけではなく,又,千差万別の企業を監査人が評価する事に無理があると思う.無理を裁くために,監査人の手間を省くために,標準と称して画一的な物差しがまかり通り,企業が振り回される危険性がある.

又,財務に関する内部統制の評価と会計監査の評価を関係づける事は困難である.内部統制の有効性と決算数値の合理的保証,信憑性とはマクロ的には連動するにしても,直接結びつかないと思う.

財務情報に関する内部統制で監査人の判断で,重要な欠陥や不備があると認識した時,会計監査に手間がかかるかもしれないが,数値は正しい事もあるし,間違っている事もあり得る.逆に内部統制に問題がなくても,決算数値が間違っている事もあり得る.内部統制に問題がないからといって,会計監査が簡単になるとは限らないのである.

そんなわけで,会計監査人による財務に関する内部統制の監査は不要だと思うが,投資家保護の視点や内部統制の強化の視点で,企業経営における内部統制の状況を開示する必要があるなら,事業報告にその部分を加えれば良いと思う.勿論,財務情報に関わる内部統制ではなく,企業全体のリスクにどう取り組んでいるかと言う会社法に乗っかった視点での報告となる.この方がJ-SOX法の目的に合っていると思う.どうやら会社法と金融庁扱いの金取法が整合していない感じがする.

しかしながら,良くも悪くも,08年の会計年度よりこの法律が施行される.表向きは経営の視点,株主の視点で内部統制を言っているが,企業側の未整備もあって,現実には,監査人の視点で内部統制が推し進められる懸念がある.

繰り返すが,結局,監査人の監査の為に,監査証明をもらう為に,法律の意図や各企業の思いとは別に,監査人の標準基準が世の中にまかり通り,これに合わせる事が目的と化すのではないか,と懸念するのである.その分,本来の企業の存続・発展を目的とした内部統制が後退したり,内部統制が形骸化する事が一番,懸念するのである.

’こういう体制・規約・記録が無いと内部統制が出来ていないと評価せざるを得ない’と言う監査人の強い主張で,商人がひれ伏す町奉行所の風景が目に浮かぶのである.

元来,投資家にとって,企業にとって,商売がどうなるか,トラブルが起こるのではないか,が一番の心配事である.せめて内部でやれる内部統制をしっかりやって,病気に掛からない元気な体を自主的に作るべきだと思うし,それを推し進める法であって欲しいのである.

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