154 金融・経済危機の教訓
昨年夏,米国の不動産価格の下落,大量の住宅ローンの不良化で懸念された景気が最近の米投資銀行の破綻を契機に,一気に信用の収縮,株・ドルの暴落,需要の停滞が起こり,不況風が世界の経済を覆った.
日本ではドル,ユーロの下落による急速な円高で輸出企業を中心に更なる株の暴落が始まった.海外投資機関の資金確保の為の日本株の売りも,暴落に拍車をかけているようだ.今後,年金資産や個人資産の大幅な目減り,資金運用益のマイナス,金融機関や企業の含み損の発生,不況による倒産・失業者の増大,賃金・ボーナスの下落など深刻な状況になる恐れが出てきた.
ところで,日本の不動産バブル崩壊は金融機関で87兆円相当の不良債権を発生せしめ,金融業界の再編にまで及んだ.同時に経済成長を支えた産業構造の脆弱性がグローバル化の中で露呈することとなった.縦構造から横構造への変化である.
この日本の資産バブルの崩壊は加熱した土地投資への金融引き締めに端を発して,高騰し続けた土地が売りに転じ,急速な下落が始まった.その結果,含み損,担保割れが発生し,相対取引の債権が不良化,一気にバブリーな国民経済も,さめていったのである.
米国の場合は証券化された住宅ローン(債権)の不良化である.特にこの債権が他の金融商品と抱き合わせで証券化され,格付けも高い商品として世界市場で取引きされていた為に,その影響や対策が掴みづらい事態になったのである.日本の場合とは違う事態と言える.
この大衆向けローンなどの証券化は近年の新しいスキームである.これによって,資金とリスクが広く分散され,さらにローンと需要を拡大させる.不動産価格も右肩上がりが当たり前になって行ったと思う.
この需要にむけ,各国の輸出が増加し,世界経済をうるおして来たのも事実である.マクロでいえば世界の国々は米国に金を貸して,米国の需要を支えなが輸出して来たと言える.こうして米国の物質文明が世界の経済を牽引して来たのである.米国の需要が低迷すれば世界の経済は大きなダメージを受ける構造になっているのである.この構造から脱出する事が米国離れが必要だとする理由である.
ところで,現在どの国も企業も個人も,借金をして物を買う時代である.その結果,収入の何十倍もの需要と債権債務が生みだされる.実態経済はこの信用(国債も含めた借金)と言う上げ底の上で,運営されている事になる.
それだけに,債務の不良化が一斉に起これば,一気に実態経済を奈落に落とす事になるが,良くも悪くも,債務・信用力・右肩上がりへの期待,によって実体経済が支えられているのである.実態経済と金融経済は表裏一体なのである.
一方,資本主義経済は常に景気や資産価値が変化する.今回の金融危機も,経済の見えざる手(ビルトインスタビライザー)が働いた結果と見れば,経済のメカニズムは正しく作動したとも言えるが,あまりにも大きい資産の暴落は,信用経済を委縮させ,企業も個人も死活問題に陥るのである.自由主義経済,いや人間の欲望の戒めである.
そこで,この信用収縮,資産価値暴落に対し,短期金融市場への資金投入,不良資産の買取,資産劣化の金融機関への資本投入,預貯金の保護,景気対策など国は金融対策,財政対策を打つ事になる.それに何十兆円かの公金を使う事になるが,それでも回復のリスク,国家財政のリスクはともなうのである.
二度と,このような経済危機を起こさない為に,事前に資産価値の暴騰・暴落を抑制する方法はないものだろうか.
日本の場合も米国の場合もそうだが,土地や原油などの拡大再生産できない物に資金が過剰に供給され,右肩上がりが継続すると,さらに資金が集中する.そのうち,実態とかけ離れた価格にまで上昇し,挙句に,一挙に破綻するのである.
従って①資金の集中を抑制する方法・政策が考えられないだろうか.
次に債権の証券化の問題である.株でも社債でも国債でも資金調達者は見えるが,ローンや一般の債権をまとめて証券化すると,まったく債権者が見えない状態で市場取引きが行われる事になる.
ましてや不良な債権を証券化しても市場では見抜けないのである.その為に,金融商品の格付けやリスク保険があるにせよ,もともと,そんな商品は市場に出してはいけない,市場取引きの原則に反すると思うのである.
そこで②顔の見えない債権の証券化を禁止する方法は無いだろうか.
次に思う事は,日本の低金利政策で個人の資金は投資に誘導された.金融市場の活性化に大いに貢献したと思うが,今回の暴落で資産が大きく目減りし,将来不安を抱えながら塩漬けにしている状態となった.特に個人投資は機関投資家と同じ市場で取引される割に情報も専門性も資金も損失保険もないのである.
そこで③元本保証の株式投資商品(個人向け損失保険)を普及させるのはどうだろうか..
例えば5年満期,途中解約自由,満期時含み損があれば元本保証,解約あるいは満期で利益があれば一定割合を販売元に支払う.こんな仕組みで貯金並に投信する仕組みである.
類似商品はあると思うが,投資の大衆化にともなうセーフティネットになるし,これによって,個人の不安解消,個人消費の維持が出来る.しかも普及によって株価の安定化,投資資金の拡大が図られると思う.
今思いつく事は素人ながら上記三つであるが,何よりも資産価格が実態とかけ離れて上昇し始めたら’売り’,実態より下がり始めたら’買い’くらいの判断が一番の抑制策かもしれない.
運用利回りは経済成長程度とみるべきだと思う.もっと上がると欲張ると痛い目にあう.欲張ると’バブルとは崩壊した後でわかる事’と言う事になる.それではまずいのである.事前に判断できない経済専門家,機関投資家の予見能力を疑うが,猛省を促したい.
故人曰く' 山高かければ谷深し’’急に上がれば急に落ちる’’膨らんだ風船は簡単に破裂する’である.これを踏まえて,健全な価値判断を持ちたいものである.個別物件の乱高下はあっても,経済全体が引きづられない政策・仕組み・価値観を人間の英知として確立したいものである.
資本主義,市場主義,自由主義を担保する為にも,暴走を制御する知恵が必要だと思う.
| 固定リンク


コメント