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2010.06.18

217 増税論議の本質

民主党政権の選挙目当ての裏付けのない目玉政策によって,いよいよ借金が限界に来たと,当ブログNO197 『危険水域の国の借金』を発信した.その懸念の中で,にわかに消費税増税論が参院戦を前にして活発になってきた.バラマキ政策の限界を知った民主党も,これに飛びついているのである.

公然と増税論が飛び交う様になったのは,国民の中で,900兆,GDPの180%に及ぶ異常な借金残高に加え,少子高齢化による社会保障費の逼迫で増税やむなしとの機運が高まったからである.増税が選挙にマイナスになるトラウマがなくなり,遅まきながら政治の中心的テーマである財政問題がクローズアップされる時代になったのである.

当ブログでも度々NO193財政法と予算編成、NO173国家財政と民主主義、NO162財政出動への懸念,等,財政の深刻な問題点や対策を発信してきた.その事からすれば,現在の消費税増税論は実に軽薄である.

増税論の枕に欧州諸国の消費税率との単純比較が出てくるからである.日本は率が低いから上げてもおかしくないと言わんばかりである.確かに一律5%の日本に対し,欧州諸国は20数%であるが,実際は食料品や住宅に低減税率が設定されていたり,税率0もある.結果,税収に占める消費税の割合は日本と欧州では率ほど差は無いのである.単純に率を比較して増税を煽るやり方は,いかにも軽薄と言わざるを得ない.

ところで,現在の借金の大半は,バブル崩壊後の90年代に積み上がった(約600兆).資産バブル崩壊で資産価値が暴落し,債権も不良化し,経済が急速に縮小した時代である.この対策の為,積極的な財政出動を繰り返したのである.

当時の考えとして『財政出動なくして景気回復なし』『景気回復なくして改革なし』が態勢を占めていた.同時に’背に腹変えられず’’増税より借金に寛容な国民性’がこれを後押しした.

その後10年間,金融ビッグバンや政治の混迷もあって,不良債権を抱えたまま,景気は回復せず,高度成長を支えた日本の縦構造も改革される事はなかったのである.

00年代に入って小泉政権が誕生し,『改革なくして成長なし』の考えで,不良債権処理,低金利による金融救済,規制緩和,官から民,等矢継ぎ早の政策が実行された.国債の発行もプライマリ-バランスの確保を目指して,約30兆に抑制された.株価も上昇し,日本沈没を救ったのである.その後,改革路線の停滞,BRICSの台頭,世界的金融危機,円高株安で国内景気は永いデフレスパイラルに陥って行った.

そして現在,冒頭の『借金に頼る時代』から,さすがに,もう借金は増やせないの『歳出削減と増税に頼る時代』に議論が移ってきたのである.

しかしながら,昨今の増税論議は基本的なテーマに触れていない.将来の歳出計画,歳入計画,財政健全化計画を示した上で増税の目的と内容を示すべきなのである.もちろん借金する場合も,この事を示すべきなのである.

当然,この全体計画がないと,増税の必要性,目的が分からない.増税が借金抑制や借金残高減になるのか,歳出増の財源になるだけで,借金抑制にはならないのか,不明なのである.たとえ消費税の社会保障目的税化と言っても,どちらになるのか依然不明なのである.そこで,増税賛否に関わらず各政党が次の2点をどのように考えているのか,改めて聞いてみたい.

①債務残高に対する認識

債務残高の評価について,政治家,学者,有識者などの評価はまちまちである.
例えば,
国の債権と相殺すれば純債務は小さいとか,国の資産の売却で借金軽減が出来るとか,経済成長に伴うインフレで軽減できるとか,国民の金融資産が大きい(1500兆)
あるから,国債発行の引き受け能力はまだあるとか,残高は増やさず,減らさずで良いとか,楽観論がある.

一方,国債償還の為の国債発行はまさに借金地獄の道だとか,金利が上がれば一気に破綻するとか,国民の金融資産は国債残高900兆が転嫁しただけで国債の引き受け能力は限界だとか,借金は未来への負担を強い,未来の主権在民権を奪うから借金を減らすべきだとか,悲観論もある.

諸説がある中で,政党としての所見を聞きたい.これが,議論の出発点である.今まで論評がないのは,株価,金利,為替レート等に大きな影響を与えるからだろうか.

②今後の歳出・歳入計画

上記債務残高の認識に基づいて,今後の経済成長をどう見るか,年金,介護,医療,等を含めて全体の歳出をどう考えるか,行政改革,地方分権等による歳出削減をどう考えるか,税,税外収入などの国民負担をどう考えるか,を聞きたい.

以上の2点であるが,国家の財政運営には,これくらいの銭勘定が必要である.見通しの修正を繰り返したとしても,この所見なしで政策など作れない筈である.

このように考えると,消費税率がどうの,時期はどうの,と言ったたぐいの論議は軽薄に映るし,将来の見通しも見えないのである.

ましてや,民主党政権は財源を無視したバラマキ政策をとったり,否定していた消費税増税に傾斜したり,第三の道が経済成長につながると言ったり,中期財政政策も曖昧である.経済や銭計算の当事者能力が欠落した民主党の姿が不安なのである.

私見によれば,上記①②の見解にも依るが,多分,いくら増税しても,おのずと限界があり,日本の財政の健全化は出来ないと思う.歴史が示す通りである.残るは,『劇的な歳出削減と経済成長』と言う極めて細い,厳しい道しかないと思う.もちろん物理的に社会保障の給付逓減(物価に比例させない事も含めて)もあり得るのである.

この細い,厳しい道は小さな政府,官から民,規制緩和,自立,自己責任社会,と言う小泉政権が挑戦した政治路線に舵を切る道である.是非,この様な政策理念も念頭に議論して欲しいものである.

一方,日本が借金問題に寛容だった理由は長期的な物価,賃金の上昇である.事実日本は40年間で7~8倍に賃金やGDPが上がっているのである.今後も,これに期待するのであれば,財政破綻を回避し続ける政策(金融政策等)が極めて大事になる.

ところで,頭をかすめる事がある.消えた年金記録やギリシャの様に突然,とんでもない実態が明らかになる事やその実態を隠して大本営発表をし続ける事である.そんな心配から上記①②の前に,まず,政治家は実態を正確につかんでいるか,官僚が隠していないか,念の為,ここから始める必要があるかもしれない.

以上,増税論議に対する所見を述べたが,無理な注文だろうか.問題の難易度が上がる程,政治家,官僚の能力,信頼が相対的に低下して行く感じがして極めて心配である.今回の参院立候補者は,この財政問題にどんな所見を持っているのだろうか.

これからの国会議員の役割は,国民の声を吸い上げて政策につなぐと言った人畜無害の受け身の姿勢ではなく,既に山積された日本の難問(憲法問題,安全保障問題,経済問題,教育問題,社会保障問題,財政問題など)に,どう立ち向かである.政党の党利党略以前に,議員一人一人が主張を持ち,国民に選択肢を示せる政治家であって欲しいのである.

追伸

ギリシャの財政破綻を契機に,日本をのぞいて,世界的に財政赤字対策が発表された.例えば,英国キャメロン新政権は6月22日強烈な政策を発表した.引き継いだ予算案の全面見直し,付加価値税17.5%から20%に増税,福祉給付5年間で16兆削減,法人税減税などである.ドイツは4年間で9兆円削減を宣言した.

いづれも強烈な歳出削減である.日本はまだ上述のごとく,日本の実情を踏まえた全体の財政計画や歳入歳出計画が描かれていない.それどころか来年度の予算が組めるのかどうかも不明である.この事が参院選の争点にすらなっていない.ちまちました事業仕訳は各省庁に任せ,政治家は根本的な問題に取り組むべきである.

特に民主党はウソつきと言われたくない組織論理が優先して,政権交代選挙で掲げた増税なしで直接給付や無料化が可能との旗をおろしていない.その為に財源がない事が分かっていても,思い切った政策転換(バラマキ中止などの歳出削減策や増税案)も出せず,来期の予算見通しもついていないのである.

自民党は民主党の給付政策,無料化政策による歳出を削減し,かつ消費税10%を主張している.消費税増税論は早期に民主党を総選挙に引きづり出す戦略かもしれないが,行政改革等さらなる劇的な歳出削減策と経済成長策に知恵を出して欲しい感じがする.

みんなの党は小さな政府,大きなサービスを合言葉に,劇的な公務員改革の断行,増税は地方財源へ,介護,子育て支援は地方主体で,経済成長は金融政策が重要,と新党らしく,ポイントを突いた歯切れのよい主張をしている.同時に国会でのキャッシングボードを握って,民主,自民を巻き込んだ政界再編を主張している.

参院選が間近であるが,言うまでもなく選挙の最大の役割は政権を継続するか,しないかの意思表示である.従って,日本の為の良い政治を行う為には国民の政治意識もあるが,政党,政治家が示す選択肢が極めて重要である.国民は選択肢に対し該当なしと言えないからである.

この増税問題のみならず,政党,政治家は高品質な選択肢(実現性,効果性,将来性を考えた政策)を示して欲しいものである.これがあって,国民の選択が意味を持つのである.これが民主主義の大前提だと思う.

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