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2010.11.17

230 中国漁船衝突事件に見る政府の問題

当ブログNo227でナショナリズムとグローバリズムと中国発信した.そこでも今回の中国漁船衝突事件についての中国の戦略・戦術を論じたが,ここでは,日本政府の問題点について述べたい.

民主党代表選のさなか,沖縄県・尖閣諸島付近で9月7日,中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件が発生した.中国政府の意図であったかどうかは不明であるが,民主党の普天間基地移設問題や与党の内紛状態に乗じて,未熟な政権を揺さぶり,中国の覇権を強める絶好の機会となったのである.

これに対し日本政府は,夏目漱石の草枕ではないが,'日本独特の心境'に陥ってしまったと思うのである.

智に働けば角が立つ.情に棹させば流される.意地を通せば窮屈だ.とかくに人の世は住みにくい.』

政府,政治家はこんな状況に答えを出す事が仕事である.しかし,政権は,悩ましき心境に浸かったまま,おどおどし,外交の弱さを露呈してしまったと思うのである.事件の経緯は省略するが,政府の対応はあらまし下記の通りだったと思う.

海上保安庁は船長,船,乗組員,を拘束,その後,船,乗員は解放するも,船長を公務執行妨害で逮捕,政権は’粛々と法に従って冷静に対応すべし’との見解で,検察の対応を’良し’と表明.

10月4日,検察は船長の拘留期間延長したにもかかわらず突然,船長を処分保留で釈放.政府はこれも司法の判断だとして,政治介入はないと公言.ただし,外交案件を検察に任せている政府への批判,外交問題を判断した検察への批判が高まる.

一方,海保が撮っていた,ビデオ映像を公開すべきとの政治家や国民の要求に対し,政府は裁判の証拠は公開出来ないとして,これを拒否.しかし,予算員会の決議に従って,一部を公開.

そんな国会での騒ぎと裏腹に,映像は海保の教材用に編集され流通していた.その映像が海保士によってYOU・TUBUに流出したのである.この海保士は自首し,国家公務員法違反(守秘義務違反)で任意調査を受けるも,法的に秘密情報漏洩に当たるのかとの疑義があり,今のところ,逮捕に至っていない.ただし,職務違反で海保内懲戒になる模様である.

又,中国政府の映像流出に対する反応は特にない.只,中国は衝突の正不当の問題ではなく,本質は領土・領海の問題だとの姿勢を崩していない.’領土問題は存在しない’との日本の主張への崩ししか興味がないのである.

そこで,この事件に対する政府対応の問題点を列記したい.

①指揮権発動なしに司法介入し,外交案件を司法に判断させた疑い.

’粛々と法に従って冷静に対応する’として検察も政府も逮捕から立件まで行く予定であったと思う.しかし,中国の報復(APEC・首脳会議・レアアース・邦人逮捕など),中国国内の反日・反政府運動・尖閣諸島の帰属問題の過熱に配慮せざるを得なくなり,政府は急遽,処分保留・釈放に方針を変えたはずである.

しかし政府は指揮権を発動せずに,あくまでも,処分保留,釈放は検察の法と証拠による冷静な判断だとしたのである.司法の独立性を縦に,政府が中国に屈したのではないとの姿勢を貫こうとした,と想像できるのである.

反面,その政府の姿勢は指揮権発動なしで,政治の司法介入,政治の司法利用と言う大きな問題をを抱える事になった.同時に,政権は国よりも政権の保身を優先して検察にやらせた印象を受けるのである.

②逮捕・拘留延長・処分保留・釈放と言う筋が通らない悪手を取った.

もう一つ問題は,外交案件への対応方法を事前に持ち合わせていなかったのではないかと言う問題である.

常識的には,政府や司法は,この様な問題を想定して,警告レベル,逮捕レベルを設定し,その根拠となる情報は政府主導で公開する.逮捕の場合は,罰金レベル,国外追放レベル,実刑レベルを設けて対応すべきなのである.

これによれば,せめて釈放ではなく追放である.逮捕しておいて処分保留,釈放では,逮捕は間違いだった,罪を問わないと表明したようなものである.最低限,国外追放と言う刑罰で結審すべきであったと思う.

どうやら,政府は主権に対する一寸の魂もない感じがする.早急に類似案件への今後の処置方策を決て置く必要があると思うのである.

③衝突映像ビデオを非公開とした.

中国漁船の無謀行為は明らかなのに,なぜ国民や中国ほか世界に映像を公開しないのか,との批判が高まった.

政府は裁判の証拠を理由に非公開とした.しかし処分保留で船長を釈放し,裁判が開かれる事はないのだから非公開にする意味がなくなるのである.それとも永久に処分保留が続き,永久に非公開にするつもりなのだろうか.

本当の非公開の理由は,公開すれば中国に角が立つ,非公開を中国と約束していた,或いは,ビデオを中国カードに使いたかった,のかもしれない.それよりも,政府は処分保留で釈放した理由が成り立たなくなる事を恐れたからかも知れない.

いずれにせよ,公開は当たり前であり,真実の公開にリスクはない.それを,裁判の証拠等と,次元の低い理由で非公開にしたのである.何もしない,先送りする,体質そのものである.

そんな中で,ビデオが流出した.中国や政府のシナリオが一気に崩れる事になる.国家秘密の漏洩事件だとする政府見解の表明は,中国に申し開きをしている様に取れる.しかし,法的には秘密ではないとの事で,その見解もあやしくなる.

法的には,国家公務員の守秘義務情報とは職務上知り得た情報で,非公知で,守秘に値するものとされている(実質秘説).しかし,海保の活動映像はこれに該当しないと言う見解が多いのである.尚,行政の長がマル秘(形式秘)と言っても,守秘情報にはならないのである.

又,海保の活動映像は今回に限らず,海保の仕事ぶりを明らかにする為,あるいは,外国船の問題行動の対処方の教材とする為にビデオをを編集し,内部で見ていたと言う.又,過去にも多くのビデオが国民にも公開されている.北朝鮮船との銃撃戦などは顕著な例である.そんなわけで,海保の活動映像は,誰も守秘情報とは思っていなかったのである.

そんな事実も知らず,闇雲に国家機密として厳重に管理する,とか,公務員の守秘義務違反だ,とか,守秘義務違反の刑罰を重くすべきだ,とか,政府の答弁はピントがづれているとしか言いようがないのである.

何が国家秘密なのかの議論も無く,刑事事案と職務違反事案とを,ごちゃ混ぜにして,政府は,けしからんと言っているように聞こえるのである

又,政府は流出後も,映像は非公開だと言い続けているが,今度も流出事件の証拠だからと言うのだろうか.当初から,おかしな事は証拠云々の前に,公開すべきか否かの政府の意思が見えない事である.国会質疑で,まず公開・非公開のどちらの考えを持っているのか聞くべきである.

・公開すべきでないとの考えなら,真実の力,それを伝える義務を放棄してまで,どんな理由があるのか明らかにする事である.
・公開すべきだと考えるが裁判の証拠だから公開出来ない,と言うなら,公開の方法を議論すればよい.
裁判の証拠だから公開しない(公開できない)は明らかに意思の表明を逃げているか,分からない,あるいは,迷っている,からだと思う.

尚,流出した映像の一部が連日テレビに流されている.公開を拒んでいる政府はむなしく感じないのだろうか.それとも,政府はテレビ局は政府方針に逆らって,けしからんと思っているのだろうか.又,流出していない映像部分も公開すべしとの声が上がっているが,今後,どうするのだろうか.政府は頭がこんがらがっていなければ良いのだが.

以上,今回の政府の対応を総括すると,

粛々と法に従って対応すると言いながら,中国の圧力があって,あるいは忖度して,突然の処分保留,釈放,情報非公開になった.中国や他国から見れば,中国の主張が正しかったと見えかねない悪手である.ビデオ流出によって,かろうじて日本の正当性が証明された形になったが,逆に,中国に屈した姿が浮き彫りになったのである.

この一連の政府の対応での問題点をまとめて列記すると,

・指揮権発動せず,司法に介入,或いは利用したとの疑いがある事
・政府の介入の有無とは別に,結果的に
司法が外交判断をした事
・逮捕・拘留延期・処分保留・釈放と言う悪手を踏んでしまった事
・類似案件発生時の対応策が事前に検討されている様子がない事
・真実の強さ,真実を伝える義務を放棄し,映像を非公開としている事
・非公開の理由を裁判の証拠だと,次元の違う理由を挙げている事
・政権の外交対応能力の弱さが露呈した事
・領海・領土を守る為の実効支配,警備,牽制が弱い事
・国の事より政府の保身を優先した言動が見える事

である.

こんな事になったのも,もともと外交に弱い民主党に加えて,民主党の代表選(9月1日公示,14日投票)の真っただ中で事件が起こり,しかも新内閣で人事が変わり,初動から対応策が作れなかったと思う.あげくに,充分の経験と判断力,中国との人脈もないまま,悪手をつかんでしまったと思うのである.

外交には一瞬の断絶や隙を作ってはならないとの鉄則を政権は守れなかったのである.又,外交に携わる政治家・官僚には経験,貫録,人脈,威厳,威圧感,押し,等の’手ごわさ’が必要だと思う.

残念ながら,民主党政権が誕生して以来,中国のみならず,ロ.シア,アメリカ,韓国,も,現政権は極めて軽いと認識したと思う.この政権に,一触即発の危険が伴う外交を任せて良いのか極めて不安になるのである.

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