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2011.10.23

260 『FREE/FAIR/GLOBAL』の潮流と日本の対応

最近,TPP(自由貿易圏の形成を目指した環太平洋戦略的経済連携協定)の話題で『FREE/FAIR/GLOBAL』の言葉を思い出した.

20年ほど前,バブルが崩壊した時,東西冷戦時代の終焉,途上国の台頭,もあって,世界は多極化時代に突入した.

この多極化及びバブル崩壊を契機に日本は
戦後体制から『FREE/FAIR/GLOBAL』な社会に脱皮しようとの機運が高かったと思う.そこで,日本的縦構造社会から自立した横構造社会への転換や産業界のリストラクチャリング(事業再編)が盛んに議論されていたのである.

しかし,その後,日本は構造改革より財政出動と言う麻薬(ソフトランデング政策)を打ち続け,バブル崩壊前の風景を追い求めた.企業のリストラも資産崩壊による経営破たん企業を除いて着手される事はなかったのである.

『変わらない事で発生するリスク』が『変わる事によって発生するリスク』より高いと思われたが,『変わる事のリスク』を避けたのである.保身,保守の国民性が露骨に出た時代だったと思う.

そして,バブル崩壊から10年後,遅ればせながら,改革路線の小泉政権が誕生し,小さな政府論,聖域なき構造改革を旗印に,規制緩和,官から民,財政健全化,等が打ち出されたのである.

しかし,改革の成果を出しつつも,約5年間の小泉政権が退陣すると,3人の短命内閣,政権交替,2人の短命内閣が続き,改革路線は頓挫する事になる.そんな中で,サブプライム,リーマンショック,による世界不況,各国通貨の下落が起こり,日本は円高,株安,デフレ,巨額の財政赤字,で経済成長も停滞し,急速に国力を落とす事になったのである.

加えて,今年,東日本大震災,原発事故が発生し,さらに厳しい難題を抱えたのである.そんなわけで日本は難題の解決策も,新しい日本の姿も,描き切れていないまま,現在に至っているのである.

この様な情勢の中で,不況,高失業率,財政赤字に悩む米国は経済・雇用の拡大,躍進する中国のアジア覇権への牽制,環太平洋の経済発展,日本の市場開放,等を目的に,アジアの自由経済圏形成より先に,環太平洋経済連携協定(TPP)の構想を打ち出したのである.これは関税障壁のみならず非関税障壁(制度等)も含めた総括的な自由化構想になっているのである.

現在,このTPPへの参加予定各国はTPPルール(標準化)を協議をしているところである.日本は参加可否について,大論争中であり,今だ,参加を表明していない.ただ,日本の参加は加盟国にとって大きな影響があり,日本は11月12日のAPECでの態度表明を予定しているのである.

その期日が迫っている中で,どうも,今までの国内のTPPの議論を聞いていると,米国のルールに押し切られ,日本の制度,仕組み,産業が滅びる,との危機感の話ばかりである.国際化時代に手を打ってこなかった日本の実態をさらしているのである.

農業などは存亡に係わる問題だとして大反対運動を展開しているが,1995年のガット・ウルガイ・ラウンド(世界貿易の障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行なわれた通商交渉)の時と同じ様に,農業の展望を述べるわけではなく,ただ,巨額の補助金を狙った条件闘争に見えたりするのである.

ところで,幕末の黒船は開国か攘夷かの議論を生んだが,勝海舟,坂本龍馬を待つまでも無く,大事な事は日本の近代化であった.同じように,ガット・ウルガイ・ラウンドの時もそうだったが,今回のTPPも,まさに,開国か鎖国か,どちらが損か得か,の問題ではなく, 『自由貿易時代,ボーダーレス時代に日本はどう生きて行くのか』と言う国家戦略の問題なのである.従って,ウルガイラウンドの時に,しっかりした国家戦略の立案と,政策の実施が必要だったのである.

この様に思うと,いまだに戦略や準備が出来ていない今の日本の状態では,とてもTPPに参加表明できる状況ではないのである.しかし,だからと言って,参加を見送っても,世界のグローバル化,ボーダレス化の潮流に背を向けたままでは,生きていけない事も事実である.『なぜ日本は戦略的になれないのか』を改めて苛立ちを覚えるのである.

そこで,またしても外圧を利用する事になるが,強引にTPPに参加して,日本を鍛えるしかない,この方が日本の将来の為になる,と自虐的に思うのである.やむを得ず戦争に突入した轍を踏む事になるのだろうか.焦土とならないよう,何としても,改革のチャンスにすべきだと思うのである.

何よりも,経済活動のボーダーレス化の推進は『FREE/FAIR/GLOBAL』な社会を形成し,世界の経済発展と平和を維持する事に繋がると思うのである.課題は多いが,将来の姿として,これを拒む理由はないと思うのである.

ただ,TPPの参加の前に,日本の方針だけは,はっきりさせておく必要がある.私見によれば,下記のように宣言したらどうだろうか.

『日本は経済のボーダーレス化を推進し,自由で公平な国際経済国家を目指す』

これを日本の国家方針として宣言し,人作りから始まって,あらゆる分野で,この実現に向けて取り組むべきである.TPPも推進者側に立って,アジア経済圏初め,世界の自由貿易圏の拡大を推進すべきである.早期に,この推進計画を立案し,TPP参加各国との協議に入るべきだと思うのである.

勿論,その為には,大きな覚悟が必要である.

農業について言えば,強くなる為に対抗策を必死に考えるか,農作物を海外に任せ,国土の狭い日本ならばこそ,農地の有効活用を必死で考えるか,である.多額の補助金を出しながら衰退し放棄農地が増加して行く事だけは避けなければならないのである.又,関税外障壁として食料安全基準や表示義務があるが,あくまでも,科学的な観点で国際的に標準化を図るべきだと思う.

医療については農業畜産以上に複雑である.ほとんどが日本独特の制度だからである.海外から見ると,全てが非関税障壁に見えるのである.例えば,海外の病院が国内に来たとすると,たちどころに,医療法人制度,医師看護士免許制度,医療保険制度,診療報酬制度,治療費制度,薬剤制度,移植等の治療制度,治療特許制度,など,切りがない程,検討項目が発生するのである.これを,どのように調整するのか,あるいは今まで通り,鎖国状態を主張していくのか,覚悟を持った交渉が必要になるのである.

この様に,TPP構想の実現においては,TPPのルール(条約)が国内法(国家主権)を優先する事から,ルール作りでは,国家間のナショナリズム,利害・制度・仕組み,が激しくぶつかり合う事になる.

そこで,説得力を持って交渉する為には,国益とは何かを明確にする事,加盟国にとって,FREE,FAIRである事,が必要だと思うのである.特にグローバル化,ボーダレス化では一方的な国益より,このFREE,FAIRの価値観が重視されると思うのである.

そこで,まず国内制度を,この二つの観点(真の国益とFREE,FAIRの観点)で見直す必要がある.特に,選挙対策や政治家の保身と露骨に繋がった制度,仕組みは,見直しが必要になる.そう考えると,TPPのルール作りは国家主権と言うより,国内の選挙対策との戦いなのかもしれない.この際,国民視点,国際的視点,で物を考える良い機会にすべきだと思うのである.

もうひとつ覚悟が必要な事がある.自由経済圏の形成と集団安全保障の関係である.はたして,集団的自衛権の行使を否定している日本のままで良いのかと言う問題である.その前に,集団的自衛権行使ができない日本がTPPに参加出来るのか確認しておく必要があると思う.

そして,最後に,このTPPルール承認に当たっては,準備は勿論,条約の批准と国内法の改定が必要になる.この最後の土壇場で,昔なら内戦が起こる位の大論争が持ち上がるかもしれない.その覚悟も必要である.

日本はあまりにも島国文化が強いだけに,多民族と伍して国際経済国家になる為には,『平成の改革』『平成維新』と言うくらいの覚悟と意識改革が必要なのである.たとえ,自由経済協定に参加しなくても,グローバル化,ボーダレス化から逃げられないし,この覚悟は必要なのである.

果たして,保身のかたまりの政治家が改革や維新が出来るのか,と言う問題があるが,最終的には国民の意識と覚悟に日本の針路が掛かっているのである.

ところで,小泉改革で官から民の政策が,守旧派,改革派のリトマス試験紙になって政治家が分類されたが,今度はTPPが,このリトマス試験紙になりそうである.今のところ,TPPに関する守旧派,改革派の顔ぶれは小泉政権時代の守旧派,改革派と同じ顔ぶれであり,どうやら日本の政界は,現在の政党ではなく,この二つの勢力で構成されているように感じられる.ならば,いっその事,これで政界再編した方が分かりやすくなるのである.

この様な世界情勢で,韓国では既に『貿易立国』と言う国家戦略を立ち上げ,その実現手段として,貿易の自由化を世界に働きかけている.これに対応した国内政策も実施している.産業,スポーツ,芸能,あるいは教育が,この戦略によって,既に大きな成果を出しているのである.勿論,負の部分もあると思うが,その戦略性の重要さを日本は謙虚に学ぶべきだと思うのである.

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