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2011.11.14

261 玉虫色政治の危険性(難問の根底にあるもの)

今,話題になっているTPP問題について,昨年11月,既に,民主党管政権はTPP参加の方針を閣議決定している.その内容は次の通りである.

『我が国を取り巻く国際的・地域的環境を踏まえ,我が国として主要な貿易相手国・地域との包括的経済連携強化の為に以下のような具体的取組を行う.特に,政治的・経済的に重要で,我が国に特に大きな利益をもたらすEPAや広域経済連携については,センシティブ品目について配慮を行いつつ,全ての品目を自由化交渉対象とし,交渉を通じて,高いレベルの経済連携を目指す』

しかし,民主党は不思議と言うか,でたらめな政党である.明らかにTPP参加の閣議決定をし,政権与党としても了承されているはずだが,ここにきて,参加するかどうかで激しい対立が起こっているのである.

APECでの表明を予定している総理はAPEC出発直前に『交渉に参加する』との玉虫色の表現で,民主党内の対立に,ひとまず区切りを付けたのである.

玉虫色とは,反対派からすれば,交渉の結果,反対できる余地があるように見えるし,賛成派から見れば,TPPに参加する前提での交渉参加だと,とれるからである.これ以上,対立すると,抜き差しならなくなる事から,この表現で,ひとまず双方が鉾をおさめたのである.

そして,総理は12日のAPECで,『閣議決定している基本方針に従って,交渉に参加する』と表明したのである.賛成派からすれば特に異論はないと思うが,反対派からすれば,不満であるが,センシテブ品目についての配慮や非参加の余地がまだ残っていると信じつつ,これからが正念場だと,改めて思った筈である. 

さて,海外諸国はどう受け取ったのだろうか.昨年の基本方針が変わっていないとして,TPPへの参加が宣言されたと受け取ったと思う.勿論,各国は総理が日本国内を玉虫色にしてAPECに来た事は承知している筈であるが,そんな玉虫色は,当然,都合の良い方で受け取ったと思う.そして,各国は大歓迎をして,辞退の道を閉ざしたと思うのである.

結果,今後,日本政府は内外から厳しく追及される事になる.

まず各国との交渉であるが,各国は,日本が昨年閣議決定した基本方針を見ながら,辞退できないと見て,グイグイと要求を押し込んでくると思う.日本は辞退すれば,日本の国際信用が著しく落ちると言うリスクを背負っての不利な交渉となる.

又,交渉過程で,日本が余りにも国益一辺倒だと,『日本の基本方針は嘘か』,『実現に向けて,何も考えていない,自分の事しか言わない』となり,挙句に,『多国間で了解済みのルールを,呑むのか,呑まないのか』,二者択一を迫られる事態になるかもしれない.ここでも,反対派への配慮や準備不足で個々の交渉力が弱くなりそうなのである.

次に国内であるが,日本が出すネガテブリストの内容や交渉経過で,すさまじい反対運動が強まると思う.政府は国内と海外の板挟みに苦しむ事になる.その時,政権は変わっているかもしれないが,対外的には継続され,苦しみは引き継がれる.

どうして,はっきりと『TPPに参加できるよう,交渉させて頂きたい』と言わなかったのだろうか.これなら,TPPに積極性を表明しつつ,参加できない余地も残せる.基本方針ともずれない,のである.

こう言えないのは,総理が基本方針に反して,苦しまぎれに,参加したいのか,参加したくないのか,よくわからない玉虫色にしたからである.

基本方針を認めているなら,『TPPに参加できるよう,交渉に入る』,もしくは,『自由貿易圏の形成には賛成だが,交渉によって参加,非参加を決めたい』と言うべきなのである.

根本的には,民主党内の分裂騒ぎに,ノーサイドで総理になった野田総理が組閣と同じように,TPPでも,党内対立を嫌った『玉虫色の政権運営』をしているから,こんな問題が起こるのである.

挙げくに,その玉虫色の姿勢が早速,日本の外交リスクになって現れてしまったのである.玉虫色がいかに外交交渉に危険か,と言う事を総理は知らないのだろうか.

政権を取って2年,民主党内のゴタゴタでどれほど日本の政治がおかしくなった事か,と嘆きたくなるのである.

今後も,普天間基地移設問題,原発事故対応問題,東日本大震災対応問題,震災復興増税問題,消費税増税問題,社会保障問題,原子力問題,等が,民主党の内部のゴタゴタや政権保身で,暗礁に乗り上げる事になりはしないか,心配されるのである.

これらの日本の難問に,玉虫色とか,建前とか,ノーサイドとか,分裂を恐れた先送りの保身本能とか,が入り込む余地は全くないのである.実質どうなっているのか,どうしたいのか,と正面から真剣勝負で問題に取り組むしかないのである.

ちなみに,国民も,政治家も,総理も,『ノーサイド』は『和の精神』だと勘違いしていないだろうか.

『和をもって尊しとする』との聖徳太子の教えからすれば,玉虫色とか,ノーサイドとかは,和ではなく,『和のごまかし』『和の先送り』『混乱の先送り』である.『何の解決も産まない』ばかりではなく,『問題を大きくする』だけの『責任回避』である.

私見によれば,大聖徳太子の『和の精神』とは『議論や決断から逃げるな』と言う事であって,『そこから生まれた和こそが尊い』としたのである.物部氏と蘇我氏の残酷な激しい戦いから滲み出た重い教えである.『ノーサイドの和』など『尊い』と言うわけが無いのである.

残念ながら,保身優先で,サイドに立とうとしない,『ノーサイド総理』では真の和の追及は無理だと思う.既に総理の『安全運転』とか,『主張が見えない』,と言う批判があるが,『ノーサイド病』の当然の症状なのである.

そもそも政治には,ノーサイドと言う『空白の時間』『穏やかな時間』も,ノーサイドと言う『ノンポリ』も,『野合』も許されないのである.もしノーサイドが許されるなら,政治も,政治家も,政党も,いらない事になる.政治とは常に問題に対しサイドを決める,厳しい仕事なのである.

別の言い方をする人がいた.最近発刊された,ケビン・メア氏(元米国国務省日本部長)の『決断できない日本』である.責任者・決定者が見えない,たらい回しの『コンセンサス社会』では,外交問題をはじめ,日本の難問は解決できないと心配しているのである.

私の問題意識で言えば,日本がGDPの2倍の1000兆円も借金をこしらえたのも,上げ底の経済大国になったのも,難問が山積に吹き溜まったのも,全て日本の国民と政治のなせる技であるが,この結果から判断すると,日本は『問題発生予知能力』も『問題解決能力』も,極めて弱いまま,今日を迎えていると言わざるを得ないのである.

この弱さは,玉虫色文化,先送り文化,ノーサイドの精神,コンセンサス社会,と関係しているかもしれない.オリンパスや大王製紙の不祥事にも,更に言えば,読売巨人軍の内紛にみる,オーナー,会長,オーナー代行,社長,球団代表,GM,の意味不明の組織人事や意思決定の仕方にも,この性格が垣間見えて背筋が凍るのである.

日本文化の特徴に『曖昧の合理性』(白・黒をハッキリさせない方がうまく行く事がある,との考え)がある.その場の争いを避け,相手を配慮する,人間の知恵でもある.長い歴史のある国に多い文化である.当ブログ 『NO029 1頁と100頁の契約書に見る日米の文化』で,この功罪に触れている.

そこでも述べているが,この『曖昧の合理性』を前面に出してばかりはいられない.この文化を続けると『立論力,実行力の弱い社会』になり,『曖昧な社会,不合理な社会』になり,『理のない気ばかりの国』になってしまうからである.

日本の『問題発生予知能力』『問題解決能力』が弱いのは,島国,単民族,農耕民族,村社会,などに起因する『曖昧の合理性を持った日本文化』とも関係しているのだろうか.残念ながら,これに自信を持って反論できる材料は持ち合わせていない.

TPP問題から,文化論まで話しが及んだが,『一事が万事ではない』事を願いたいものである.

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