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2012.05.28

281 『一体改革』審議を止め総選挙を

『社会保障・税の一体改革』法案が国会審議に入った.総理はマニフェスト詐欺,党内対立,ネジレ国会,法案の目的と完成度,等の問題を抱えていながら,しかも,難問山積みの国政の中で,不退転の覚悟で,この法案を成立したいと言う.

この法案に対し,草案の段階から,多くの問題を指摘して来たが,さらに『成立したら信を問う』と言う問題を指摘したい.一見,正しいような主張だが,反面,民主党政権が『NO』となれば,国会審議が無駄になるのである.国民に信を得ていない政策だから起こる問題である.これも民主党マニフェストの後遺症である.

そこで,遅まきながら国政を正常に戻す為に,加えて,いつも混迷する民主党政権からの脱出をする為に,日本が抱える多くの難題に対峙して行く為に,法案が成立しても,しなくても,どうせ総選挙になるのだから,無駄になる国会審議を止めて,前倒しで,総選挙をやるべきだと思うのである.

この観点で,いくつかの問題を指摘し,総選挙の必要性を論じてみたい.そこで,まず,消費税の基礎知識から考えてみた.

消費税は竹下政権時の1989年(平成元年)4月,我が国に初めて,税率3%で導入された.仕事柄,消費税の議論が交わされていた段階から,情報システムの対応方法を検討していた.細かな仕組みは忘れたが,当時としては全く新たな,奇妙な税制であった為に,真剣に勉強した事を覚えている.

この税制は基本的にはあらゆる製品やサービスの購入に,消費税を課し,事業者は売上に伴う,税の受け取りと,仕入に伴う,税の支払い,との差額を納税する多段階差額納税制,別名,付加価値税制である.もし輸出や設備投資で差額がマイナス(支払い税が受け取り税より大きい時)になれば還付される事になる.そんなわけで物品税とは全く異なるのである.

ところで,トータルでこの税を負担するのは消費者である.消費者は原価,付加価値,消費税を最後に負担するからである.この意味で消費税と言われるわけだが,納税は事業者が行う事から,直接税ではなく,間接税になるのである.

以上の理屈で言えば,もし国全体で納税される付加価値税がゼロだとすると,消費者が負担した消費税は国に納税されない事になる.又,還付の財源は消費者が負担した消費税になるが,勿論,税収がこの分,減る事になる.ましてや,付加価値税がゼロなら,還付の財源は他の税金になる.そんなわけで,『消費税率と税収の関係』は制度や経済情勢,或いは消費者行動によって変化するのである.

この消費税は消費税を負担する消費者の所得,財産に関係なく,子供も含めて,すべての人の購入物に課税する為,『広く,浅く課税する税制』だと言われている.この特徴から景気に左右されにくい,安定的な財源になると言われているのである.

この税制を有効な税制にするには,税率を低く抑えつつ,経済成長を続ける事である.重税感もなく,パイの拡大に応じて税収も増加するからである.

しかし,その税率が高くなると,本来の特徴が一変する.『広く,浅い税』から『広く,重い税』になり,可処分所得や経済を直撃する事になる.

当然,増税の必要性や負担と給付の関係がシビアに追求される事になる.又,重税に見合った制度設計も必要になる.何よりも,デフレ・不況下で増税すれば,税収増どころか,経済・財政破綻の引き金になりかねない凶器になるかも知れないのである.

私見によれば,税率が5%以下,10%以下,15%以下,とそれぞれにコンセプトも,税制度も,経済への影響も,変わってくると思う.単に率をいじる話しではないと思う.経済情勢に最大の留意が必要だが,次の制度設計もしっかりやる必要がある.

①非課税品目の設定(社会政策的配慮,他の税制との整合)
②逆進性への配慮(軽減税率や税還付)
③高額課税への配慮(住宅,車,等,耐久消費財購入への配慮)
④簡易課税制度(零細事業者向けの見なし課税等)

⑤還付金制度(輸出,設備投資等によるマイナス差額の還付)
未納問題,益税問題,への対策

この消費税の基礎知識を踏まえて,当ブログでは『社会保障・税一体改革』の素案の段階から,
問題点を指摘して来た.

NO276 『日本財政は破綻寸前か』(4月6日)
NO275 『民主党消費税増税法案と政局の行方』(3月29日)
NO274 『消費税10%は広く浅い税か』(3月18日)
NO269 『どこに社会保障と税の一体改革があるのか』(1月20日)

依然として残る,いくつかの問題点を次に列記したが,これを踏まえて,無駄な国会審議を止め,各政党が政策を立て直し,国民にそれを問う事から,国政をリスタートすべきだと思うのである.

問題①民主党政権で大増税を言う資格はない

子供手当て支給,高速無償化,高校無償化,農業戸別保障,等,ばら撒きと言われた民主党政策の財源として『12兆円は捻出できる』と豪語していたが,真っ赤な嘘だった.この総括もないままに,今度は『社会保障の為に12兆円の増税をしたい』といい始めたのである.

結果として,選挙と言う民主主義の原点を揺るがす大きな汚点を日本の民主主義に付けた責任はとらなければならないのである.

いくら社会保障と財政が逼迫し,緊急を要している問題としても,民主党政権は余程の総括をしなければ,これを論じる資格はないと思う.

日本の民主主義を正常に戻す為にも,汚点にまみれた法案審議など止めて,選挙のやり直しから始めるべきである.『急がば回れ』の時間は充分あると思う.

問題②『一体改革』の中身がない


提出された法案は,『一体改革』と言うものの,『何が目的か』,『何が一体化か』,はっきりしないのである.社会保障の改革が目的で増税を言っているのかもしれないが,その姿が見えない.むしろ,増税が目的で,社会保障改革を後付けした感じがするのである.社会保障改革を表紙にすれば,増税がマニフェスト詐欺にならない,とでも思ったのだろうか.

又,表紙にした社会保障改革においても,マニフェストで主張した『最低保証年金の支給』,『後期高齢者保険の廃止』,『年金一元化』等について具体性も,実現性も,その実施時期も,はっきりしないままである.『すぐ実現しそうな,よい事ばかり言って,裏付けがない』マニフェストの特徴がここにも表れているのである.

そんなわけで,社会福祉を後付けした上に,その全体構想も,内容も問題だらけであり,ますます増税案(消費税,所得税,相続税)ばかりが目に付くのである.『一体改革』などとよく言えたものである.

本音は『予算が組めないので増税したい』であって,この言い方の方が率直で,分かりやすいのである.こんな完成度の低い『一体改革』法案は国会審議に値しないと思うのである.

問題③消費税大増税に向けた制度設計が出来ていない

完成度の低さで言えば,消費増税も同じである.政府借金高に対する認識や財政計画も聞こえて来ないが,上記,消費税の基礎知識からみても,今後,税制がどうなるのか,さっぱり,見えないのである.どうやら,法案の本意は現行消費税制度のままで,『率だけ変えたい
』としたいようである.

制度議論になると議論が長期化したり,増税案が吹っ飛んでしまう事を財務省が恐れているのかもしれない.もし,政府も財務省も,8%,10%と率だけ変えて済まそうとしているなら,『官尊民卑の官僚の机上案』だと言わざるを得ないのであ.

問題④与野党協議で民主党の非を誤魔化す魂胆が見える

政府の与野党協議の要請はネジレ対策だけではなく,民主党の非を消す魂胆が見え隠れしている.例えば,マニフェスト詐欺や
法案の完成度の低さを『超党派と言う美辞麗句』で隠してしまいたい,次の選挙で民主党への批判を緩和したい,増税の反感を野党にも向けさせたい.そんな魂胆が透けて見えるのである.勿論,そんな罠に野党は簡単に乗らないと思うが.

問題⑤重大政策を決める順番が違う

最後の大きな問題は,冒頭でも触れたように,国民に信を問う順番の問題である.民主党政権は『成立してから増税実施前に総選挙をやる』としているが,政権に『NO』が出た時,今国会の審議が全く無駄になる事を意味している.

実際,『NO』の可能性が極めて高い上に,成立しなくても総選挙になる事も予想され,いづれにせよ,今国会の一体改革審議は意味がないものになるのである.国民の信を得ていない事をやろうとすると,こんなおかしな事になるのである.ここにも,民主党マニフェストの後遺症が出ているのである.民主党政権のゴタゴタは,いつも民主党のマニフェストが震源地なのである.

あくまでも,『政策の信任を得てから法案審議をする』との手順が正しいのであって,その為に選挙がある.一刻も早く,政治の手順を元に戻す為に,無駄な審議や政局話は止めて,総選挙で政策の信を国民に問うべきなのである.こんな簡単な問題に気が付かないのだろうか不思議である.

従って,野田総理がいくら成立への不退転の決意を言っても,夕日に向かって意味のない事を叫んでいるとしか思えないのである.

本来なら不退転とは,増税などの手段の実現に使う言葉ではなく,目的の実現に使う言葉のはずである.目的がはっきりしていない上に,無意味な成立を叫ぶのだから,夕日に叫ぶ如くになるのである.

もし目的を叫んでいれば,法案がどうなろうと,政治家としてのメッセージになるのだが.すべからく,総理の発信力が乏しいのは,具体的目標が欠落しているからだと思う.原発再稼働でも,エネルギー政策でも,TPPでも,景気対策でも,震災復興対策,でも,具体性が乏しいのである.ドジョウの様に,泥から顔を出さない性格では日本の経営は出来ないのである.

そんな分けで,総理の不退転の発言が繰り返えされる都度,だんだん,むななしく聞こえて来る.著名な政治評論家が人の嫌がる増税を主張する野田総理を真面目な人だと高く評価していたが,余りにも次元の低い,見識も狭い話しだと驚くのである.

以上の5つの問題を一掃する為に,そして,日本が抱える多くの難問に対峙して行く為に,一体改革の無駄な審議は止めて,総選挙による政治の仕切り直しを行うべきだと思うのである.民主党政権発足以来続いている政治の混迷はもう終わりにすべきなのである.

今夏はオリンピックと節電,あるいは停電で暑い夏が予想されるが,『急がば回れ』で日本の政治危機,逆境を乗り超えたいものである.

今まで,民主党政権は総理退陣で延命したり,東日本大震災で延命したり,今度は一票の格差問題で延命するのだろうか.あるいは,任期満了を権利だと感違いして延命するのだろうか.或いは,選挙をやれば負けるから,と目一杯,延命するのかも知れない.

しかし,民主党政権が延命し続ければ,政治危機は続く.日本が抱える難問も深刻さを増して行く.この政治危機からの脱却なくして,日本の前途はないのである.

日本国総理大臣には日本の政治を立て直す為に,政治体制を強化する為に,政策の方向性に国民の信を得る為に,早期に『解散の決断』をして欲しいのである.中期の視点で見れば,『急がば回れ』の大局観が今日本には必要だと思う.

追記(5月31日)日経新聞の昨今の論調への疑念

5月31日の日経新聞の大機・小機コラム:『消費税増税は危機管理』と,社説:『首相は自公と連携へ踏み出す時だ』,を読んで,全国紙,専門誌とは思えない論調を感じたので,ここに指摘しておきたい.

先ずコラムの主張は,『財政問題は危機管理の問題だ.財政危機のリスクを取り除かねば成長はない』,『その方法は増税だ』である.『成長なくいして財政再建なし』を間違いだとしているのである.

この増税優先の主張に呼応しているのか社説でも,『小沢陣営との党内対立より,自公と連携して,一体改革を進めるべきだ』としているのである.

両記事とも,とにかく,何が何でも増税が必要だ,と『素人の断言』のような事を言っているのである.あまりにも短絡的なだけに,世論操作のにおいがするくらいである.

増税による経済・財政破綻のリスクはないか,増税だけで財政リスクが取り除けるのか,社会保障の中身と財源をどう考えるべきか,円高,株安,デフレ対策が先ではないか,電力問題や震災復興は大丈夫か,とか,論点は多くあり,多くの論客が激論しているのである.

それに比べ,今回のコラムや社説は,いかにも断片的でプアである.日経らしくない『素人の断言』である.愛読者として幻滅を感じる.マスコミはもっと読者に正しい選択肢を示す努力が必要だと思う.もっとも,最近は,地方紙のコラムの方が適格な主張をする事が多いように感じる.しっかりした論客がいるからだと思う.

地方から中央を見ると,よく見える.多分,大手マスコミは政治や政治家に近すぎて,森が見えていないのかも知れない.

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