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2012.06.15

283 元財務官僚 『榊原英資氏』VS『高橋洋一氏』

同じ元財務官僚の榊原英資氏と高橋洋一氏の主張を紹介し,官僚の考えを考察したい.

元財務官榊原英資氏には,深刻な話でも笑い顔で話したり,自分の主張をハッキリ言わない人だとの印象が強い.その原因は『ミスター円』と言われる事を嫌い,官僚は『黒衣に徹するべきだ』とした美学のせいなのだろうか.あるいは,単に,ハッキリ言わない,言えない性格が原因なのだろうか.

その氏が5月に著書『財務省』を発刊した.定年まで財務省を勤め上げた親財務省の立場で,官僚の活躍ぶりや,官僚の大切さを紹介した本のようである.先輩として,脱藩官僚の問題点も述べている.官僚バッシングが吹き荒れる中で,現役のエリート官僚にエールを送りたかったのかもしれない.

氏はこの本の中で,自分の考えとして,このような事を述べている.

日本は今後,ヨーロッパ型の『大きな政府』(高福祉高負担)を目指し,消費税20%くらいはやむをえないと考える.日本は現在,国民負担率は低く,ヨーロッパ諸国に比べれば,『小さな政府』だ.

今後,日本は,米国型の『小さな政府』ではなく,増税によって『大きな政府』に向かうべきだ.ただし,増税の実施は今のような景気情勢や震災復興期にすべきではない.むしろ減税が望ましい位である.国の財政は当分大丈夫だ.

この論に国家財政の認識は同意するが,国民負担率が低いかどうかと言う問題と,増税による『高福祉高負担』が可能か,と言う問題が気になる.

氏の言う国民負担率は財務省が出している狭義の国民負担率である.平成24年度予算ベースで言うと,租税負担率22%,社会保障負担率17%で合計負担率は39%になると言う.これが先進国と比して低いと言う事で,増税派が良く使う数値である.

しかし,行政コストの負担率を正しく出すには公共料金,高速道路料金,交通料金,パスポート料金,教育費用,医療費,介護費,さらには借金の該当年度の潜在的負担,なども加えて算出する必要がある.(広義の国民負担率).しかし,この数値は不明であり,本当のところ,負担率が高いかどうか,分からないのである.私見によれば,高いと思うのだが.

次に高福祉高負担が可能かと言う問題である.狭義にしろ広義にしろ,行政コストは社会福祉コストだけではないので,当然ながら,負担率は社会福祉に対する負担率ではない.従って,この数値だけで『高福祉高負担』とか『低福祉低負担』とかを論じる事は出来ないのである.

国土や自然環境から日本は高コスト国家だと思う.従って,GDPを高め,税収が増加しても,負担率を高めても,借金返済も含めて,金は湯水の如く消えて行く社会である.予算配分の優先度をいくら高めても,高福祉高負担など,不可能ではないかと思うのである.あえて言えば『中負担で高福祉』への工夫と挑戦だと思う.

次に『小さな政府』か『大きな政府』かの認識の問題である.氏は負担率が低いから『小さな政府』だと言うが,それは借金がない時,成り立つかもしれない.1000兆も借金があると,大きい,小さいの物指しは,国民負担率ではなく,GDPに占める政府支出・政府負債の割合だと思う.

日本政府は1000兆(GHDPの2倍)の借金残高と毎年90兆に及ぶ政府予算を組んでいる.勿論,それと比例して,資産,債権も多い.日本政府の資産はGDP比で言えば,『世界一の大きな政府』だと思う.日本的社会主義と揶揄され由縁である.

以上,『広義の国民負担率の高さ』や『世界一の政府支出』を考えれば,既に日本は『大きな政府』に肥大していると思う.とても『小さな政府』などと実感できないのである.従って,そう言いたいなら,『福祉だけ小さな政府』だ,と言い換えるべきである.

以上のように,榊原氏の主張に異論を感じるわけだが,私見によれば,日本のこれからは,『小さな政府に向けた改革』(歳出の縮小と経済成長の両立)しか選択肢は残っていないと思う.榊原氏の言う『増税による大きな政府志向』はあり得ないと思うのである.その前に経済が破綻するからである.

ところで,現役官僚は榊原氏と同じ感覚なのだろうか.今回の『社会保障と税の一体改革』はさっぱり先が見えないので,方向性もわからないのである.

さて一方の高橋洋一氏に話を移したい.氏は財務省の脱藩官僚論客として多くの著作やネットで積極的に主張を発信している.そんな中の6月13日,衆議院社会保障と税の一体改革特別委員会の公聴会で,公述人として,消費税増税反対の意見陳述を行った.

日本の財政は破たん寸前ではないとしつつ,中期的には財政再建論者である高橋氏は増税以外にやるべき事を具体的に述べている.その骨子は次の通りである.

第1に,『経済対策』として,
①デフレの解消が先②財政再建の必要性が乏しい③欧州危機で増税は不適
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第2に,『税理論』として
④不公平の是正が先(徴収漏れ防止)⑤歳入庁の創設が先⑥消費税の社会保障目的税化は誤り⑦消費税は地方税とすべきだ.

第3に,『政治姿勢』として
⑧無駄の削減・行革が先⑨資産売却・埋蔵金が先⑩マニフェスト違反である.

以上10の理由を上げて,今回の増税を否定したのである.詳細はサイトを見ていただくとして,さすが論客の高橋氏らしく明確で論理的だと思う.何が何でも消費税増税すべきだとの政治家の意見と比べれば,視点も,政策の厚みも,政策の順番も,全く違う感じがするのである.

尚,高橋氏はインフレターゲット論者として,金融緩和で借金を軽減させ,同時に円高,株安を解消し,経済をデフレから脱却させ,経済を活性化させ,所得と税収を上げ,社会保障費用を軽減させて行く,いわゆる,『経済成長なくして財政再建も社会福祉もなし』,『経済と財政の一体改革』の論客なのである.又,現在は国家財政の危機ではないとの主張を繰り返している理論家である.この点は榊原氏と同じ認識のようである.

二人の主張を紹介したが,主張の違いは『政治とは距離を置いて,円満退職した財務官僚の榊原氏』と『理論家,実務家として小泉改革を支え,その後の財務省改革(予算編成関連)で対立し,退職した財務官僚の高橋氏』との差に見えるし,『体制派vs改革派』の問題意識,改革意識,生き方,の違いにも見えるのである.

現役のエリート財務官僚は当然,体制派で増税論者である.榊原氏も今現役なら,増税を主張するだろうと言っている.個々人の考えがあっても,どうやら体制の流れに飲み込まれるようである.ましてや組織の中で,反論とか改革はとんでもない事になる.従って,当然,主張のある官僚は脱藩官僚になり,論客の道を歩むのである.

体制派の危険なところは,天下国家を預かっているとの大義,自負から『負担率が低いから,もっと召し上げろ』,『5%から10%にするだけだ』と代官になったような錯覚に陥る事である.その結果,『体制派官僚は悪代官に』,『脱藩官僚は論客に』なって行くのだと思う.

ところで,政治家と官僚の関係で思い出すのは吉田学校である.党人派ではない外交官出身の吉田茂は戦後の復興を目指して,官僚を積極的に政治の要職に登用した.ワンマンと揶揄されるほどの強力な『考えとリーダーシップ』があっての『官僚登用』である.これで,戦勝者の米国と渡りあい,戦後の経済復興体制を作ったのである.

もし日本が上述のように『小さな政府に向けた改革』しか選択肢が残っていないとすると,体制派の官僚ではなく,脱藩官僚を含めた『改革の志のある官僚』を結集して,政治勢力を形成して行く必要があると,お二人の元官僚を見て,強く思うのである.

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