« 335 葛藤する日本文化④ | トップページ | 337 料理の偽装事件に思うこと »

2013.10.27

336 特定秘密保護法案の論理的な議論を

『特定秘密保護法案』とは特定秘密(防衛・外交・スパイ活動・テロの4分野の内,日本の安全保障に著しい支障を与える恐れがある情報(電子化された情報含む)を秘匿する法案であり,国家公務員が漏洩した時の罰則規定(下記の特別防衛機密の罰則と同じ10年以下の懲役)も定めている法案である.

この法案の目的は特定秘密情報を秘匿する事で国の安全を守る事である.この為に,『国民の知る権利』や『報道の自由』が制約される事があっても,国の安全の方を優先するとしているのである.ただし,秘密保護の対象は公文書であって,私文書は対象外である.従って,法による秘密情報の秘匿にはおのずと限界がある.

ところで,今でも守秘義務の法律がある.国家公務員法では,守秘義務に関する罰則(一年以下の懲役),自衛隊法では,防衛秘密に関する罰則(5年以下の懲役),日米相互防衛援助協定秘密保護法では,『特別防衛秘密』の罰則(最長10年の懲役),がある.今回の法律では,『特別防衛機密』の罰則に合わせたのである.

この法案は設立を予定している『国家安全保障会議』(日本版NSC)や今後,検討されて行く集団的自衛活動における,『外国との秘密情報の共有』の為には不可欠な法案とされているのである.

大筋は以上であるが、一方では次のような『難しい課題』が想定される.

①特定機密の指定や,その妥当性を誰が決めるのか,
正当な取材活動や報道が制約される事はないか、
③電子化された情報を含めて漏洩防止をどうするのか、
④秘密情報の開示及び非開示をどうするのか、
⑤すでにある秘密情報をどう扱うのか


誰もが気になるこれらの『課題』を,声高に言う論者が多いが,次のどの考えで言っているか不明である.

A.この法案は必要だと考える.今後,これらの課題への提案をし,詰めて行きたい.
B.この法案は『国民の知る権利』,『報道の自由』に違反しているから反対だ.
C
.この法案は必要がないと考えるから反対だ.

論理として成り立つ主張はA.とC.である.しかし,日弁連のようにB.を言う人もいる.その法律家の論調にいくつかの疑問を呈したい.

この人達は,この法案の目的に賛成なのか,反対なのか,よくわからないが,『憲法に違反するから反対』だと言っているのである.集団的自衛権についても,憲法に違反しているから反対だ,と言う主張と似ている.

言い換えると,この人達は『国家の安全』より『知る権利』や『報道の自由』の方が大事だと考えているようである.同時に憲法の条文にある理念に『合っている』,『合っていない』と,イチゼロで判断しているようである.

どうやら法律家の頭の中は,『どうあるべきか』とか,『この理念・目的の為に,他の理念が後退する事もある』と言う想像力や思考回路を持っていないと見える.『条文単位に違憲を言う習性』があると感じるのである.法律家の職業病だろうか.

言うまでもなく,憲法の理念は具体的にその実現内容や程度を定義をしているわけではない.例えば,『国民の知る権利』,『法の下の平等』と言っても,何を持って合憲違憲を判断するかの物差しはないのである.

従って,解釈や判例で違憲・合憲の判断をするのだが,それだけではないと思う.目的に応じて,理念が後退する場合もある事を理解すべきだと思うのである.例えば,

『一票の格差で平等が後退するが地域代表の政治家を選ぶ』,
『国民の知る権利や報道の自由が後退するが,国家の安全を守る』,
『報道の自由が後退するがプライバシー,個人の名誉,公序良俗を守る』,
『非摘出子への遺産相続の平等性は後退するが,家族やその財産を優先する』,
『課税の平等性は後退するが累進課税等で税収を確保する』,
『同姓,性転換の婚姻は認めないが,社会の夫婦,家族の秩序を守る』,

の様に,『後退する理念』だけ捉えて,違憲を主張するのは『木を見て森を見ない判断』,『権利だけの主張』になるのである.

『特定機密保護法案』で言えば,『知る権利の後退より,安全保障を優先する』と言うのが法案の目的だと思うが,違憲で反対と言う人は上記のように,『目的の賛否』を言わずに,『知る権利』が後退するから反対だと言うのである.

本当に『安全保障』より『知る権利』,『報道の自由』が大事だと考えているのだろうか.集団安全保障に反対するのも同じだが,『憲法を守って国が滅んだ』では本末転倒だと思うのだが.

そんな理屈に発展しない為にも,法律家は『法案の目的』に『賛・否』を表明すべきである.もし反対ならその理由を主張すれば違憲を言う必要はないのである.賛成なら,権利が著しく後退しないような方策を提案すべきなのである.

中には,目的に生理的に反対する人が,明確な反対理由を言えず,違憲を理由にあげる人がいる.そんな人とも本質的な議論が出来ないのである.

又,メデア,マスコミ,ジャーナリスト,キャスター,コメンティター(いづれも定義が不明だが)の論調にも疑問がある.

今回の法案に対して,法律家と同じように,『報道の自由が規制される』,『国民の知る権利が限りなく制限される』から反対と言う人が多い.ならば,国家が秘密を持つ事に反対なのだろうか,マスコミが特定秘密情報を得た時,報道の自由を傘にして,特ダネとして報道するのだろうか,あるいは,国家の秘密を持つ事に賛成なら,どう秘密情報を運営すれば良いと考えているのだろうか.

今のところ,法律家と同じように,これらの人達からも,『秘密保持』と『報道の自由』についての本質的な主張が聞こえて来ない.あるいは,上記『課題への対策』を持ちさわせていないのかもしれない.だから,時として,反対論者は『稚拙な正義感』に浸っていると見えるのである.これでは,世論誘導が出来ても,本質的な議論は出来ないのである.

ところで,インテリ、リベラルの人は,政府の政策に賛成する事はまずない.かと言って,対案を示すわけでもない.『反対する事が仕事』だと思っているのだろうか,知的に見せたくて反対しているのだろうか.

又,これらの人達は『客観のふり』をして主観を言い,『世論を誘導』しようとする習性もある.自分の言った事に責任も持たず,間違いを訂正する事もない.自由の権利をいかんなく発揮するが,義務を守ることはないのである.すべてとは言わないが,『無責任な言動』が多いように感じるのである.

例えば,政治家もマスコミも,過去に猛烈に反対した法案が何の問題もなく運用されている事に『反対した事は間違いだった』とは絶対言わないのである.逆に,散々賞賛していた人物が問題を起こすと,手のひらを返したようにバッシングが始まる事もある.言論人として恥ずかしくないのだろうか.『間違いを間違いだったと言える言論人』はいないのだろうか.そんな人達が対案もなく問題だと騒ぐ言動に信頼感が沸かないのである.

ところで,この法案に対するアンケートを見ると,『中身を知らない』と言う人が多い上に,『反対も多い』.まさに,本質的な議論がない事と,反対の論調の影響,が出ている感じがするのである.マスコミの我田引水的な恣意的なアンケートのとり方に疑問を感じるのである.真に世論を調査するなら,人気投票の様に抽象的なYES・NOの質問ではダメだと思う.

そんなわけで、政治家も,政党も,法律家も,識者も,報道も、『法案の目的に賛成か反対か』、『賛成』なら『課題に対する対策』を提案し,しっかり議論をして欲しいのである.近々,この法案が国会で審議される.『どんな議論になるのか』,注力して聞きたいと思う.

くれぐれも,『手段の目的化』(課題を挙げて政府を攻撃する事が目的)にならないよう切望するのである.あくまでも議論の目的は『国家の特定機密をどう守るか』である事を忘れないで欲しいと思うのである.

追記(2013・12・05)

この法案は衆議院を通過し,参議院での審議が行われているが、今週の会期末を迎えて,この『特定機密保護法案』がもめている.もともと難しい法案なのだが,残念ながら,上記で取り上げた懸念が起こっている.

具体的には『歯止めのない情報隠しに繋がる恐れがあるから反対だ』,『限りなく国民の知る権利が抑制される恐れがあるから反対だ』と野党は政府に詰めよるが,本文で述べた通り,『法案の目的に賛成なのか,反対なのか』,課題を言うのは,『賛成の上』で言っているのか,『反対の為』に言っているのか,わからないのである.これでは論理的な議論が出来ないのである.

与党はこの問題に対し,内閣府(行政内)でチェック機関を持つとしているが,野党は行政に任せられないというのである.かと言って納得できる対案を示しているわけではないのである.

第三者機関や国会でチェックすべきとの意見もあるが,そんな事になれば秘密が秘密でなくなる恐れがある.特に,日本の場合,国会議員,特に,左派勢力に特定秘密が知れる事が一番危険だと感じる人はいると思う.

そんな判断から,与党は欧米と同じように,内閣府の責任でチェックするとしているのだが,それに変わる案は聞こえてこないのである.

野党は納得を得られそうな対案も示さず,『反対の為の課題』を上げ連ね,『強行採決反対』と叫ぶのだが,その人達ほど,論理的な議論をして来なかった人達だと思うのである.その人達の鬼の首を取った様な,得意満面で課題を上げ連ねる言動に,うんざりするのである.

思わず『それで,国家の特定秘密情報をどうするのか』と,その人達に聞きたくなるのだが,聞いても無駄だと,聞き流すしかないのである.

結局,今国会で,議論がかみ合わないまま,この法案が,成立するのである.私見としてはこの法案の必要性を感じていたのだが,各党の『法案の要否,課題への対案』が聞こえないまま決着する事に『議論の未成熟さ』を感じるのである.私の勘違いだろうか.

今後も重要法案が議論されると思うが,本文の切望にあるように、法案提出者には『法案の目的とその実現に向けた法制度』を,各政党には,『法案の要否とその理由』、『要の場合の課題と対策』を事前に宣言して,議論に入ったらどうだろうか.

これを示さない政党は審議に参加出来ない事にする.このルールで『対案のない反対』や『対策のない課題』による審議時間の無駄を防止できると思うのである.国民も各政党の対案,対策を聞きたいのである.

そうすると各党が必死に対案を考えるはずである.反対の為の反対も出来なくなる.国民も各党の対案を比較し評価できる.議席数に関係なく,対案を出した上で,議論し,決着するのが論理的な,建設的な,議論だと思うのである.これこそが議会制民主主義だと思うのである.これが政治家の基本動作だと思うし,健全な野党とは,これができる政党だと思うのである.

国会議員には言論の自由、結社の自由、選挙で選ばれた権利,不逮捕特権,に見合う『義務』を自覚して欲しいのである.国会議員や政党には『政策や対案のない自由はない』と思うのである.これを自覚できない人に年間1億円の歳費は無駄だと思うのである.

繰り返すが,『対案のない議論』は『時間の無駄』,『議会制民主主義の形骸化』だと思うのである.国民は『各党の対案』を『ぶつけ合った議論』を見て評価したいのである.対案の激突がなく,多数決だけげ決める事を議会制民主主義だとは思わないのである.従って,議席数にかかわらず,野党の『対案』が必要なのである.これなくして政党や政治は成長しないのである.野党が国民を巻き込んで反対デモをやるにしても,対案がなければ単なる扇動でしかないのである.

.

|

« 335 葛藤する日本文化④ | トップページ | 337 料理の偽装事件に思うこと »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/134518/58451930

この記事へのトラックバック一覧です: 336 特定秘密保護法案の論理的な議論を:

« 335 葛藤する日本文化④ | トップページ | 337 料理の偽装事件に思うこと »