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2013.10.31

337 料理の偽装事件に思うこと

2007年10月当ブログ『NO120で食品表示の功罪』で色んな問題を提起した.そこで心配した事だが、今回,有名ホテル・レストランの『料理の偽装問題』が明るみに出た.レストラン側の論理では,偽装の意思はなく,メニュー名やその説明文と実際の食材が違ったのはミスであった,としていたが,いろいろな料理が長期間,間違った表示のままであった事から,単に『ミス』では済まされない問題になったのである.

顧客から,騙されて,高い料理代金を払わされた,と言われても,反論出来ないし,長年培って来た信用も一機に失墜するのである.この事件をきっかけに,多くのレストランでも『同様な事があった』と,次から次に謝罪会見をしているのである.『みんなで渡れば怖くない』現象が全国に蔓延している感じである.

ここで食品表示に関して,私の理解で法制度を簡単に整理してみたい.

・JAS法(農林水産省所管)
農林水産物の規格、品質,の定義と表示に関する制度.あくまでも加工食品が対象でありレストラン等の『料理』は対象外.


・食品表示法(消費者庁所管)
食品衛生法,JAS法、健康増進法(栄養),の表示を統合して消費者に分かりやすくした制度.これも加工食品が対象であり、レストラン等の『料理』は対象外.


この様に,消費者が店頭で買う加工食品に対して,消費者に情報を与える目的で表示制度が作られているのである.

一方『料理』はいろんな食材や調味料を使って調理して出される食品であり,加工食品を対象にした表示法の適用は困難であり,しかも、料理の情報は直接,店に聞く事が出来るとして,食品表示法の対象外にしているのである.

ただ、『弁当』、『おせち料理』は販売店や通販で買えるから,JAS法や食品表示法の対象となるのだが,料理と同じ様に,加工食品ではないし,その適用は困難である.ただし,食材とか消費期間などを値札に表示している『弁当』を見かけた事はある.

私見では,消費者の購入方法ではなく,工場等で,大量に作ったり,輸入される,加工食品』といろんな食材を使って調理する『料理』とを分けて議論すべきだと思うのである.

さて,今回,この料理に頻発している問題は次の三つである.

①料理のメニュー名や説明文と実際の料理の食材が違っていた問題
②未表示のまま加工肉を使っていた問題
③上記①②が多くの有名レストランで行われていた問題

原因はともかく、いずれも『料理の偽装』であり,法的には,人を『騙した行為』である事から,『景品表示法』(民法・優位誤認を招く,不当表示防止),『不当競争防止法』(民法・偽装表示防止),『詐欺』(刑法・個人に対する罰則)等の法律が関係する事になる.

過去に,未表示で『牛脂注入加工肉』を使った料理に『景品表示法違反』が適用されたり、メニュー表示と違う食材を使った料理に『不当競争防止法』が適用された例があると言う.

ところで、『加工食品』や『料理』の事件は後を絶たない.『賞味期限の問題』,『産地・ブランド偽装の問題』,『ブレンド米偽装の問題』,老舗料亭の『食べ残した食材の使い回し問題』,『おせち料理の写真と違っていた問題』,等があった.

しかし,今回,露呈した『料理の偽装事件』は③にあげたよう,特定企業にとどまらず,有名レストランを中心に全国的に行われていたのである.その意味で,今回の事件は,これまでとは全く違った,深刻な問題を社会に投げかけたのである.

そこで,『信用で成り立っている料理』について,次の『二種類のメニュー』に分けて考察してみたい.

①『一般料理名のメニュー』の場合(ステーキ、ハンバーグ,味噌ラーメン、親子どんぶり,等)

料理の内容を示していないのだから,食材、調味料,調理方法,等は自由であり,顧客もそれを信用して食べている.まさにこれが料理の原点である.料理の中身によっては.信用を失う事があるかもしれないが,法に触れる事は無いのである.勿論,違法な食材や表示義務のある食材を未表示で使えば,違法になる.

今回,この一般料理名の料理で発生している問題は『未表示』で,『牛脂注入加工肉』を使用していた事である.味の面では『肉』と区別が付かず,しかも,圧倒的に安い,と言うのだから,『肉と言えば加工肉』が当たり前になっているのかもしれない.表示義務がある事を知らないと言う人も多いと言う.それくらい,『加工肉』は当たり前になっているようである.

そんなわけで,昨今,『安くて旨い肉』が多くなったと感じている消費者は多いと思う.今回の事件で,加工肉の存在を始めて知った人も多いと思う.さて,今後,『加工肉』との表示に,どう反応するのだろうか.知らない方が良かったという人もいるかもしれない.

又,今回,『加工肉』にアレルギー物資があり,アレルギー症状を引き起こす危険性があると言う新たな問題も発覚した.そうなると,『未表示』は単に『景品表示法違反』ではなく,『命に係わる表示違反』になるのである.このことも合って,『加工肉』の表示は徹底される方向になると思う.

では,その他の食材,調味料などに,アレルギー物資が混ざっている場合の表示義務はどうするのか,と言う問題に発展する.アレルギーのある人は店に申し出るような注意書きを貼っている店もあるが,全ての店で表示が義務付けられているわけではない.

さらに言えば,『牛肉以外の肉』たとえば、『ゲテモノの肉』がステーキやハンバーグやラーメンに使われている場合はどうなるのだろうか.

『ゲテモノの肉』を使っていたからと言って,顧客を騙した事にはならない.店側からすれば,『これも料理の内だ』と言うはずである.ならば客が,『どんな食材が入っているのか』と尋ねたら,積極的には答えない事もあるだろうし,『企業秘密』と拒否されるかもしれないのである.

結局『信用出来ないなら食べるな』となるのだと思う.ただし,ステーキやハンバーグ専門店等で,オーストラリア産とかアメリカ産,とか,メニューに表示している店もある.

そこで,『一般料理名のメニュー』の全てに,使っている食材や調味料を表示すべきだという意見もある.又,『加工肉』以外にも,健康被害の可能性がある食材や調味料があれば表示すべきだ,と言う意見もある.はたして,実現性の問題もあり,議論の分かれるところである.

②『特別料理のメニュー』の場合(食材や産地、ブランド等の指定がある場合)

高級レストラン等で,料理の特徴,希少性,高級感,等をアピールする為に,あるいは,顧客に料理の内容を丁寧に説明し,満足度を上げてもらう為に,料理名や料理の説明文・写真に特定食材を指定している場合がある.特に,顧客を引く為に,この『特別料理メニュー』が大流行である.

そんな中で,多くのレストラン等で料理名や説明文と違った食材が当たり前のように長期に亘って,出ていたのである.料理は信頼を前提に成り立っているにもかかわらず,断りなしに,説明と違う食材等を平気で使っていたのである.これだけではなく,『加工肉』を未表示のまま,使っていた事も発覚したのである.

どう考えても,顧客を長期間,騙し続けて来た事になる.法的処罰,損害賠償,だけではなく,店の信用失墜,あげくに,廃業に追い込まれるかも知れない大問題を多くのレストランでやっていたのである.

今回の『料理の偽装問題』は競争激化による価格競争,宣伝合戦,それに伴う原価削減が背景にあって,『意図的に偽装した』と評論家やマスコミが言うのは簡単である.そうかも知れなが,これだけ多くのレストランでやっていた事を見ると,何か別の根本的な問題があるのではないかと感じるのである.

そこで『料理』に関する根本的な事に言及してみたい.

そもそも,料理は『割烹料理』に見られるように,今日,仕入れた食材で,料理や価格を決めて,『今日のメニュー』を作る.中には,客数に限界があり,予約をとる割烹もある.勿論,お客は,『今日の食材』に期待するのである.これが『料理の原点』だと思う.

一方,レストラン等の『一般料理名のメニュー』は食材の市場価格が変わっても,料理は定価である.だから,料理の特徴を出したり,価格競争に負けない,しかも安定的に確保できる食材を必死に選ぶのである.

『特別料理のメニュー』の場合も同じだが,指定した食材を量的にも,価格的にも,安定的に確保する必要がある分,『一般料理のメニュー』の調達より厳しい食材確保になる.

たとえば,客数の変動によって,食材が足りなくなったり,残ったり,指定した食材の良し悪しにばらつきが出たり,市場価格も変化するからである.

そんなわけで,『特別料理のメニュー』は『料理に影響が出ない範囲』で,安くて,量の確保も安定的な食材を使い始めるのだと思う.勿論,そこに,原価を落とす意志も働く.料理人の『違う食材を使っても,料理に違いが出ない』,『料理は食材より腕が大事だ』との風土も加わって,『違う食材』を使う事に『抵抗感がなくなって行く』のかも知れないのである.

もしそうだとすると,『国産の松茸とキノコ,神戸牛で秋の味覚ディナー¥15000』と銘打って,長期間の販売を企画しても,違う食材が入り込む余地が生まれる.

ビジネスモデル風に言えば,『割烹』は食材によって毎日、メニューと価格を変えるビジネスであり,『レストラン』は,メニューと価格を変えずに,食材を変えるビジネスだと言えるのである.

だとすると,レストランの特定の食材を指定する料理メニューは『偽装』と隣り合わせであり,それを避けるには,『指定した食材を変えない事』を徹底して守るか,『食材を指定した料理メニューをやめる』しかないのである.

さて,この『特別料理の偽装』の防止であるが,『一般料理メニュー』に対する意見と同じように,使った食材や調味料を表示すべきだと言う意見がある.少なくとも,『加工肉』以外にも,健康被害の可能性がある食材や調味料に表示義務を負わせるべきだと言う意見もある.しかし,現実的に可能かと言う問題や,『料理』をそこまで規制するのか,と言う意見もある.

さて、今回の『料理の偽装問題』,『加工肉の未表示問題』にどんな処罰が下されるのだろうか.初犯と言う事で指導程度で終わるのだろうか.多くのレストランを持つ企業で,多くの料理が長期間,間違いを繰り返していた事から,もっと厳しい処罰が出るのだろうか.消費者も,業界も,行政も,食文化も,とんでもない事案を抱えた事になったのである.

今回の事で、今後は『料理名や宣伝文・説明文』が慎重になり,微妙な表現も多くなると思う.たとえば,『和風ステーキ』,『和風ハンバーグ』,『秋の味覚ディナー』,これなら『ステーキ』『ハンバーグ』『味噌ラーメン』と同じように,食材が違っても問題にならないし,しかも高級感が出る.ただ『美肌に効く鍋料理』等,効果を誇大に言うメニューには要注意である.

ところで,『食』は法制度以前に,口に入るものだけに,食材,調理,衛生に関して『モラル・信用・信頼』が大前提である.これを失う行為は,『食の文化』ひいては『国全体の文化』にも影響を与えるのである.それゆえ,『モラル・信用・信頼』が『食文化の原点』だと言う事を料理業界は,も意一度,徹底して欲しいのである.

当分日本は,『他国の料理の食材が信じられない』等と言えなくなった.『和食の文化遺産』にも,水を差したと思う.今回の事件の影響は極めて大きいのである.

最後に,記者会見で見る『経営者の資質』についても触れておきたい. 

重大な問題に直面した時,その人の『人格や資質』が露骨に表れるものである.経営者が大問題の報告を受けた時の『第一声』に、まずそれが表れる.たとえば,こんな感じである.

『よくわからん,どうするんだ』(うろたえる経営者)
『うまくやれ,お前らに任せる』(無責任に権限移譲する経営者)
大問題だ,対策チームを作る,出来るだけ早く公表する』(問題解決型経営者)

そして,どのタイプの経営者でも,いずれの日か,記者会見に臨む事になる.勿論,弁護士を交えて,言い方を検討すると思う.多分この時,弁護士は,認めたら終わりだ,強気で行け,くらいの助言をすると思う.『常識と覚悟のない経営者』ほど,弁護士の助言や企業保身,経営者保身が働いて,『企業論理優先』の説明をやってしまうのである.

勿論,このような『企業論理』は概して見え見えで,説得力を欠くし,逆に反感を買って,厳しい質問攻めに合うのである.あげくに,『事実の偽装』や『企業の姿勢』が疑われるようになるのである.

結局,『記者会見場』が『2次遭難現場』になってしまうのである.『企業論理』には,『社会に通用しない危うさ』がある事を忘れてはならないのである.

以前,牛のBSE問題で,症状を隠した畜産農家のご夫婦が責任を取って自害した事があった.田舎の農夫にマスコミが群がって,追求した事も影響したと思うが,夫婦で自害した例は明治天皇崩御で乃木大将夫婦が自害した時,以来である.

田舎の農夫の責任の取り方に驚くが,これは極端な例だとしても,不祥事が発生した時の,経営者に『常識と覚悟』が極めて大事だと思う.これを持たなかった為に,傷口を大きくした企業は多くある.

企業論理や保身に走る事なく,誠意を持って『現象と原因』の『事実』を述べ,『非』に対しては,『率直』に『お詫び』とその『弁済』、『再発防止』をしっかり言うべきなのである.これが経営者の態度だと思うのである.

『二重遭難』に合うのは,修羅場の経験の無い,順調に出世して経営者になった人に多いと思う,そんな経営者ほど,『何で俺の時、不祥事が発覚するんだ』と不運を悔やむのである.

危機の未然防止は当然だが,万が一の準備として,『常識と覚悟を持った経営者』を持つ事も,企業の『リスクマネージメント』では大事である.社長人事にはこの資質を忘れてはならないのである.何と言っても社長は企業危機に対する最終責任者だからである.

もう一つ、『社長の責任(辞任)の取り方』に次の二つがあり,悩む事がある.

①日本文化的には,問題が解明する前に謝罪し辞任する事を表明する.
②海外文化的には,問題が解明するまで謝罪も,辞任も表明しない.

多分、『常識と覚悟を持った経営者』でも,この『文化の狭間』で悩むと思う.感情的な日本文化で謝罪と辞任を表明すると,国民からは,潔いと好感を得るが,海外から見ると,全面的に『非と責任』を認めた事になり,訴訟が起これば企業側が不利になると感じるのである.

そんなわけで,問題が国内に限定されるか,海外にも及んでいるか,によって『文化を使い分ける』事になる.

さらに,日本文化に従って,早々と『辞任を表明』する場合,次の二つの表明の仕方があるが,これも悩むのである.

①問題の解明,顧客への対応,再発防止に見通しが出た段階で辞任する.
②新しい体制に,全て託して,速やかに辞任する.

A.の場合は、社長に信頼感がある場合である.信頼感が感じられないと,反感を買う.その可能性があればB.を選択する事になる.私見で言えば,辞任を表明するのだから、B.の方が明快でスピード感があると思う.問題も引きずらないと思うのである.

国際化が進む中で、海外流の考え方が主流になって行くと思うが,今回の事件を見ていると,国内的には,まだその考え方は非常識に映るのである.

追伸(食品虚偽表示の法的責任について)

2013年11月18日の日経新聞に食品虚偽表示の法的責任について,整理されていたので,ここに,そのダイジェストを掲載しておきたい.

虚偽表示に関係する主な法律は下記である.

・景品表示法の優良誤認
・日本農林規格(JAS)法の品質表示基準
・不正競争防止法の誤認を引き起こす行為
・刑法の詐欺
・民法の契約責任の不完全履行
・消費者契約法の重要事項の不実告知
・会社法の取締役の善管注意義務,内部統制構築義務

一般的に,消費者の合理的選択を阻害する事から,故意・過失に関係なく,景品表示法違反に該当(罰則は行政処分,課徴金はなし).ただし,表示に使う用語が明確に定義されていない場合や,どの程度,優位誤認に影響を与えているのか,等があり,ケースバイケースになる.尚,騙してもうけようとの意志があって販売していれば,刑法の詐欺(ただし個人)が問われる事もあり得る.

民事上の責任は,食べてしまっているので,正しい履行を迫っても実質無理.経営判断で解決金で対応するしかない.ただし虚偽表示で損害が生じていれば,損害賠償請求もあり得る.

信用失墜で業績悪化については,善管注意義務違反で株主代表訴訟になる場合もあり得る.又,内部統制構築義務違反に問われる可能性もある.(以上)

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