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2014.10.25

375 妊婦の仕事変更による賃金減は是か否か

2008年,理学療法士として勤めていた広島市の病院で,妊娠した為に負担の軽い業務を希望したところ,新たな業務に就く際に病院側から副主任の肩書を外され,月9500円の副主任手当を失ったと言う.この事に対し,不当だとの訴えが起こされたのである.

一審、二審は原告の敗訴であったが,最高裁は23日,妊娠を理由にした職場での降格は原則として男女雇用機会均等法が禁じる不利益処分にあたり違法だ,とする初めての判断を示した.例外となるのは「自由な意思に基づいて本人が同意した場合」と「業務を円滑に進めるうえで特段の支障が生じる場合」との基準も明示した.

この判決に対してテレビの多くコメンティターのコメントは,画期的な判決だ、妊娠や出産による職場での嫌がらせ,『マタニティ・ハラスメント』への一定の抑止力になりそうだ,等と判決を歓迎しているようであった.

これに対し、ネットの反応は違った.この判決に対し,疑問や異論が多かったのである.その成否は別にして,通り一遍のコメンティターのコメントより,一般人の方が感性が鋭いと思った.コメンティーターは、これにどう答えるのだろうか.私の感想も含めて,いくつか紹介したい.

①妊娠しました.楽な仕事にしてください.でも給料は下げないでね、と言っているのだが、これを拒否したのは違法だ,と言う裁判官がくるっている.

②会社は妊婦に対して本人の実力・貢献に基づいて人事評価できないってことだよね. 

③女性の採用が減りそうだ。特に妊娠しそうな人のね. 

④訴状の事実はなんら変わっていないのに,一審、二審、最高裁と違う判決が出る理由は何んだ.結審前にWEBはじめ各種メディアで取り上げられたからか,裁判官への恐怖と絶望を感じざるをえない. 

⑤降格が違法なら,今後,若い女性の昇格のハードルは必ず上がるだろうね. 

⑥本人が『仕事を楽にしてくれ』と申し入れた事は,本人が『承諾』している事になるのではないのか.

⑦妊娠以前と同じ仕事が出来ないのだから、降格,減俸も仕方無いのでは.この訴えが通るのなら、普通に仕事をしている人との,新たな不平等が発生しますよね. 

⑧妊婦に負担を軽減して極力就業しやすい環境を作ってあげる事は会社の責務だが、処遇をどうするかは仕事上の判断だ.『妊娠を理由に降格した』と言う裁判官の判断に事実を曲げて男女雇用機会均等法違反判決を出したい意図を感じる.事実は『妊娠・仕事の変更・降格』のはずだ.

⑨権利を主張する人は,『同一労働,同一賃金』と言っているではないか. ならば,仕事が違えば処遇は違って当たり前だよね.

⑩不当判決だ.100人以上の規模の病院ならともかく,そこら辺の開業医にまで産休を取らせた上に育休まで取らせてあげるのは経営に影響必至です.その間に新規での採用もしないといけないとなると育休明けで戻って来た人を解雇せざる負えない.零細開業医で余剰職員を抱える余裕は無いですよ.ここまで労働者の権利を押し通されるのは国の経営者苛めとしか考えられない.

妊娠で仕事を変えた結果,収入が減る問題は仕事とは別に,企業が妊婦手当を出すかどうか,もしくは,福祉行政で支援するかどうか,の問題だ.

⑫はっきり言って経営不振で倒産したらマタハラとか男女雇用均等へったくれとか言ってる場合じゃないでしょ.労働者は雇用保険で守られ、経営者は寝室で首を吊れって事ですか.

ざっとこんな感じですが,裁判官,コメンティタ-はどうこれに答えるのだろうか.

ところで,労働基準法及び育児・介護・等の福祉に関する法律では使用人は『雇用の継続及び再就職の促進を図り,職業生活と家庭生活との両立に寄与する事に努め,これらの者の福祉の増進を図り,あわせて経済及び社会の発展に資する事』と記されている.

企業では,慈善事業ではないのだから,『賃金は働いた対価である』を基本にしている.だから仕事を通して人事評価をするのである.

一方で企業は雇用の責務として,労働者の福祉の充実,税金や社会保険料の負担,などの社会的役割を背負わされているのである.そして,企業の社会的負担をどうするかは常に問題になっているのである.

このように法律は職場生活と家庭生活の両立に寄与すべきとしているが、現実には、従業員の医療・介護・子育て等への企業の配慮や企業負担は企業の体力の関係もあって,法で定めた事以外は一律ではないのである.

現実に,各企業の賃金・賞与規定、資格規定、休暇規定、諸手当規定、等は当然の事ながら,労働者との合意に基づいて決められているが、企業によってまちまちなのである.

以上であるが、私見を整理すると、

判決は『妊娠した事を理由に降格させた』から違法だとしているが、事実は『妊娠したから本人の要望を受け入れて仕事を変えた.仕事が変わった結果、降格になった』である.

裁判官が事実を誤認しているなら判決は間違いである.それとも、事実を認識したうえで結果的に『妊娠した事で降格になった』と、とらえているなら、裁判官に男女雇用機会均等法違反判決を出したいとの意図が働いている、としか考えられないのである.

私見によれば、あまりにも人権意識が前面に出ているように思う.人権論者がよく間違う勇み足である.事実が『妊娠・仕事・降格』であるにも関わらず,『妊娠・降格』と言う我田引水的な構図にデフォルメするところは,人権論者がよくやる論法なのである.

今回の事案は,明らかに妊娠したから,妊婦保護を優先して仕事を変えたのであって,不利益処分を受けたのではないのである.

違法となる場合は、妊娠しただけで減捧になった場合,妊娠したにもかかわらず,仕事環境を変えなかった場合,仕事が軽くなって減俸されるのは女性だけの場合だと思う.

要するに、今回の最高裁の判決は『労働が変わっても,同一賃金を払え』と言っているようなもので、労働基準法、男女雇用機会均等法の精神である労働者の『同一労働、同一賃金』の理念を裁判官自ら破れと言っているようなものである.

妊婦保護の為に仕事を変え,その為に賃金が減る事が問題になるなら,感想にもある通り賃金とは別に妊娠手当を企業が考えるか、行政が支援策を考えるか、の問題であって、賃金を減らした企業を一方的に違法だと言うのはむちゃくちゃな論理である.

これらは私だけの感想だろうか.裁判官の公平な認識力と立論力が欠如していると思わざるを得ないのである.はっきり言って,裁判官失格だとも思うのである.

ところで、私の物の見方,司法への懸念について触れておきたい.

私は世の中の問題には究極的には三つの視点があると思っている.この三つの視点を定めた上で,それぞれの考え方を知り,物事を判断するようにしているのである.

たとえば坂道は見方によっては上り坂、下り坂、もう一つ、地球規模で見れば,平坦と言う三つの視点がある.そこで、一つの視点だけではなく、この三つの視点に立って論理性を判断するのである.裁判官にもっとも必要な物の見方だと思う.

今回の問題で言えば,妊婦の視点,経営の視点、もう一つ,公共福祉の視点,がある.勿論,裁判官が偏った視点に立てば、論理性が欠落するのである.

もう一つ、懸念している事がある.司法の裁量権の問題である.法律は抽象的な記述が多く、判決に裁判官の裁量が入り込む余地が大きいのだが,中には、法律では判断ができない事も,裁判官の裁量の内に含まれる場合がある.

そこまで司法の裁量権が広がると,法治国家は法律ではなく司法の裁量権によって運営される事になる.極めて危険な事態である.したがって、司法の判断が困難な事案は、国会(立法府)に判断できる法律を作るように要請すべきだと思うのである.無理に裁判官がその裁量権を振り回してジャッジをすると法治国家ではなく、裁量国家なってしまうのである.

これは裁判官を信用していないからではなく,主権在民を貫きたいからである.最近,度々当ブログでも発信しているが,裁量権の乱用,お代官様時代への回帰現象が見受けられるからである.

限られた裁判官の俗人的な裁量権で国家権力が行使されないように、裁判官の自覚と新たな法治国家の仕組みが必要だと思うのである.

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