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2014.11.10

376 事前合意文書による日中首脳会談への懸念

日中間の問題が山積みであるにもかかわらず、首脳会談が2年半も行われていないと言う異常な状態が続いている.その原因は、中国の日本への外交戦術にあると思うが、双方の主張は次の通りである.

中国は首脳会談をやる条件として『日本の総理が靖国参拝をやめる事』『尖閣には領有権問題がある事を認める事』を主張.

日本は『靖国参拝は国の為に亡くなった英霊への参拝であり、総理として当然の参拝である』『尖閣は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない』との考えであり中国の条件を拒否.

この平行線の中で、安倍総理は『首脳会談開催に条件を付けるべきではない』『多くの問題があるからこそ首脳会談が必要だ』『日本はいつも門戸を開いている』と一貫した姿勢をとってきたのである.

中国のいつもの、『お願いするなら貢物を持って来い』と言う中国の朝貢外交に安倍総理は釘を刺して来たのである.

そんな綱引きの中で,中国は下記の合意文章を交す事で,日中首脳会談を行う事に同意したのである.その合意文章の概要は以下の通りである.

1.双方は日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した.

2.双方は歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた.

3.双方は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し,対話と協議を通じて情勢の悪化を防ぐとともに,危機管理メカニズムを構築し,不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた.

4.双方は様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して,政治・外交・安保対話を徐々に再開し,政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見情報の一致をみた.

そもそも,このような合意文章は会談後に発表されるものだが、事前に出るのは異常である.この合意文書に日本国内から多くの問題が指摘されている.私も率直な感想、懸念を述べてみたい.

『首脳会談開催に条件を付けるべきではない』との日本の主張を合意文書を作った事で,自ら反故にしてしまった事になる.そもそも、会談の為の合意文書など日本からすれば作る必要がないのであって、どう見ても、中国の作戦のように感じるのである.

日本側は『何も譲歩していない合意文章』で懸案の首脳会談に道を開いたと評価する向きもあると思うが,中国の考えは,そんなに呑気ではない.会談をしたいと言う日本側の強い要請を人質に,中国に有利な合意文章を事前に作らせ,今後の反日運動の論拠や外交カードにしようと考えたと思うのである.

中国メデアも中国政府を代弁しているかのように『靖国参拝をしない』『尖閣には双方の領有権問題がある』との中国の主張を『日本が認めたから日中首脳会談をやる事にした』と国内外に吹聴しているのである.

③この首脳会談実現に向けて,,もう一つ気がかりな事がある.水面下で折衝に入った自民党の親中派の古参議員の折衝の仕方である.

『首脳会談がないのは異常であり、何としてもAPECでの首脳会談をお願いしたい』と,いつものお願い外交の姿勢で,言ったのではないか,との懸念である.

その場合,折衝はこんな感じになる.

・日本が途絶えていた首脳会談を是非やらせてください,と申し出る.
・中国は首脳会談が出来なかったのは,日本に原因があると主張する.
・その原因を日本が取り除けば会談はやれると、日本に譲歩を要求する.
・譲歩できない日本はその条件を低くする交渉に入る.
・ぎりぎりの合意文書を貢物として差出し,何とか会談に漕ぎつける.
・中国はこの合意文書と朝貢外交で言う接見を演出する.

・会談ではないのだから,中国は今後も日本次第だと主張し続ける.

このように、お願いした方が譲歩と責務を求められる事になるのである.中国は絶対、他国に『お詫び』や『お願』はしない.面子を守らなかったら,交渉が不利になるとの歴史的教訓事を知っているからである.韓国も同じ外交姿勢である.

それに対し、日本は,すぐ『お詫び』や『お願い』をするのである.日本文化とも関係するが、相手によっては,無防備に日本文化で対応すると,大きく国益を損なう事になるのである.温厚な古参議員に,時々,この危惧を抱くのである.

そもそも,首脳会談の開催はその必要性があると同意した時,行われるのであって,やる必要がないというなら,その理由をただせ良いのである.又、やりたいのなら,その理由を主張すればよいのである.『考えや行動が気に食わないから会談はしない』は国際政治を後退させるものであり、先進国の態度ではないと主張すべきなのである.

以上の事から,今回の合意文章は双方に取って玉虫色ではないと思う.日本から見て,何の意味も,方向も、裏の意味も、示していない文書であるが,中国から見ると,文書の裏に,中国の主張が見え隠れしているからである. 

言い換えると、日本から見ると額面通りだが,中国から見ると,中国の主張に沿った解釈が出来る合意文書になっているのである.会談をお願いした側と、お願いされた側の違いがこの合意文書に表れていると思うのである.

そして11月10日,日中首脳会談が行われ【北京時事通信】は次のように伝えたのである.

安倍晋三首相は10日,中国の習近平国家主席と北京の人民大会堂で会談した.日中首脳会談は第2次安倍政権下で初めてで、両首脳は日中の「戦略的互恵関係」の推進を確認し,冷え込んだ関係の改善を目指すことで一致.沖縄県・尖閣諸島をめぐる対立や,首相の靖国神社参拝などで悪化した日中関係は転機を迎えた.

会談終了後,首相は記者団の質問に答え,「戦略的互恵関係の原点に立ち戻り、関係を改善させる第一歩になった」と表明した.会談に関しては「アジア太平洋経済協力会議(APEC)の場を利用して,首脳間の対話をスタートさせ,「アジアの国々だけでなく,多くの国々の期待に応える形で,関係改善に向けての第一歩を記すことができた」と強調した.

また,尖閣周辺海域などで日中の偶発的衝突を防ぐための「海上連絡メカニズム」に関し、首脳会談で実現を働き掛けたことを明らかにするとともに,「実施に向けて具体的,事務的な作業に入ることになる」と述べた.

日本の首相と中国主席との公式会談は,2011年12月に野田佳彦,胡錦濤両氏が行って以来約3年ぶり.日中両国は,短時間の接触を除けば首脳が会談できない不正常な状態が続いていた.今回の.安倍・習会談を契機に,両政府は政治,経済,安全保障などあらゆる分野で対話を促進させる考えだ.

何か建設的な,前向きの会談であったような報道だが、水を差すわけではないが、そんな風には感じられなかったのである.むしろ、上述のお願いのシナリオに近い感じを受けたのである.

中国は首脳会談ではなく,会談を人質にして,今後の対日戦術に役立つ合意文書を作らせる事,それを差し出させて,会ってやると言う朝貢外交を演出する事,会う事でAPEC議長国としての面子を保つ事、が目的で、その通り実行したと思うのである.

実際,通訳を入れた25分は『会談』ではなく,超貢外交の『接見』のようであり、『日本の要請で会ってやった』と言う姿勢が露骨に見えたのである.

そして『関係改善に向けた第一歩』を進めるのは日本次第だとして『中国の思い通りの関係改善』を推し進めると言っているように見えるのである.

このように,中国のしたたかさを感じるのだが、日本としては、譲歩もしていない合意文書で首脳会談に漕ぎつけたと安堵しているわけにはいかないのである.日本としては中国の解釈に影響される事なく、合意文書の額面通りに,愚直に政策を進めるべきだと思う.

又,安倍総理も朝貢外交のような扱いを受けて,内心は怒り心頭だと思うが,どの国に対しても『首脳会談に条件を付けるべきではない』『いつも門戸は開かれている』との姿勢を今後も貫くべきだと思う.

さらに,危惧する事がある.中国のマスコミは、この合意文書で,靖国問題、尖閣問題に日本が譲歩したと報道している事である.中国政府が言わせているのかもしれない.日本が譲歩はしていない,双方の違いを認識しあっただけだ、と言っても,声が小さいし,日本のマスコミも中国の報道に反論をしていないのである.

世間から見れば,日本が強く首脳会談を要請したのだから、日本が譲歩したに違いないと思うのは自然である.したがって、中国のマスコミの報道はもっともらしく聞こえるのである.

これに反論するには、中国が譲歩したとの報道が必要だが、お願いされた中国が譲歩するわけがなく、この報道はきあまり聞こえて来ないのである.あえて言えば、APEC議長国の面子があって,中国は譲歩した,と考えられるが、日本側に会談をあきらめる覚悟がなければ、これはないのである.

ここで危惧するのは河野談話の轍を踏む事である.合意文書に書かれていなくても,中国メデアの報道が世論を形成しかねないのである.そして,合意文書の中国の解釈が日本攻撃の論拠になってしまう可能性がある.日本側としては、合意文書の意味をしっかり世界に発信しておく必要があると思うのである.世論が形成された後に、そんなことは合意していないと言っても後の祭りである.日本は中国の解釈を知っていたではないかと言われるだけである.

最後に中国や韓国や北朝鮮との外交に思う事がある.

これらの国は現在においても,ナショナリズムで統治しようとする国家である.それも含めて、アジアには時代のタイムラグがある国が多く存在しているのである.

たとえば,先進国,新興国,発展途上国,後進国、或は共産国などの混在である.そんな中で、戦争放棄した憲法を持つ先進国日本もいる.経済規模世界第2位の中国、第3位の日本もいる.

当然、民主化や産業の発展、或は国民のモラル・価値観、成熟度、などに違いが生じているのである.このタイムラグが外交を難しくしているように思うのである.

例えば,中国や韓国や北朝鮮のナショナリズム国家は、当然、ナショナリズムを抑えようとしている成熟国家と信頼関係が生まれるわけがないのである.

日本は、いろんな国が存在するややこしいアジアから引っ越すわけにもいかず、価値観が同じになるまで待つしかないのだろうか.少なくとも、多くの国から尊敬される国になる事だけは積極的に進めたいものである.

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