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2017.01.23

460 第45代アメリカ大統領就任演説への感想

2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が45代アメリカ大統領に就任した.就任演説は選挙中、あるいは、当選後、の主張と同じ、「米国第一主義を実行する」を前面に出した内容であった.その理由をトランプ氏は次のように述べたのである.

就任演説要旨(日経新聞1月22日朝刊より引用)

「米国は多国を豊かにしたが、我々の富、力、自信は消え去った.工場は閉鎖され,海外に移転され、取り残された何百万という労働者が顧みられることはなかった.それは過去のことだ.米国第一主義を実行する.貿易や税制、移民制度、外交などのあらゆる決定は米国の労働者と家族に恩恵を持たらすために実施する.

我々の製品をつくり、企業を盗み、職を奪う外国の破壊行為から国境を守らなければならない.自国産業の保護こそが素晴らしい繁栄と強さにつながる.米国は再び勝ち始め、かつてない勝利を収める.職、国境、富、夢を取り戻す.

国家全域にインフラを整備し、人々を福祉に頼る生活から仕事に戻らせる.我々の手と労働力で米国を再建する.我々が従うルールは米国製品買い、米国人を雇う、の二つだ.

世界の国々に友好親善を求めるが、全ての国が自己利益を求める権利を第一に考える権利を持つという理解の上でのことだ.これまでの同盟を強化するとともに、新しい同盟を構築する.過激なイスラム主義テロリズムを地球上から完全に撲殺する.中身にない対話の時代は終わりだ.行動を起こす時だ.

米国は再び栄え、豊かになる.新しい時代の扉が開こうとしている.次世代のエネルギーや産業、技術が実用化される.すべての国民が無視される事はもう二度とない.ともに米国を強く、豊かにしよう.米国に誇りの持てる、安全な国にしよう.ともに米国を再び偉大な国にしよう.」

そして、就任初日に発表した政策は

・OPECなどへのエネツギー依存からも脱却(米労働者のコスト引下げ)
・ISやイスラム過激派テロ組織の根絶(力を通じた平和構築)
・経済成長を促進し、2500万人の雇用創出(雇用を殺す制度の緩和)
・イランや北朝鮮を念頭にしたミサイル防衛システム開発(他国の軍事力抑制)
・不法移民,ギャング、薬物の流入を阻止(米国民の安全確保)
・TPP離脱、NAFTの再交渉、又は脱退(オバマ政権の政策転換、二国間交渉)

・気候行動計画の破棄(オバマ政権の温暖化ガス削減策の破棄)
・医療保険制度改革法の見直し(オバマケアーの見直し)

私の感想はトランプ氏が当選した時、発信した451 米国大統領トランプ氏の主張とその影響(16・11・11) ってい.その上で、こう切り返したくなるのである.

「これまで米国のやり方はダメだ、国民はだまされてきた、今こそ、国民の為の国を作ろう」と言う趣旨を述べていたが、富豪が社会主義革命を起こすような事を言って、米国民は違和感や懐疑心を持たなかったのかだろうか.

本心がどこにあるのか、実現性を、どう見ているのか不明だが、取りあえず、そうでも言わなければ,富豪は国民の支持を得られないと考え、インパクトを強くするために、よくあるアジテーターのように、一方的な断定口調で訴えたのではないのか,その分、歴史や事実を無視している事に,米国民は,疑問を抱かなかったのだろうか.

保護主義、国益、ナショナリズムの衝突で起こる、戦争や貿易摩擦は、もうやめて、フリー、フェアー、グローバルな世界を作ろうではないかと、米国が主導してきたのではないのか.TPPも5年間、厳しい交渉を,米国主導でやって来たのではないか.トランプ氏の頭の中に、グローバル時代前の、貿易摩擦時代があるとすれば、時代遅れではないのか.

ところで、1921年,第一次世界大戦後の不況を背景に、ベルサイユ条約や国際連盟に反対し、第29代大統領になった,共和党のウオーレン・ハーデンの孤立主義以来の保護主義者が誕生したと言う人もいる.

今や製造業は車に限らず、垂直構造から、国際的水平構造に移っている.多くの製品は国際調達部品で作られているのである.その中で、世界各国の企業は厳しい競争を続けながら、技術開発、製品開発を続けているのである.

その結果、産業・企業の栄枯衰退があり、産業の新人代謝がなされるのである.勿論、それに対応した、労働市場の流動化が必要になるのである.

この傾向の中で、貿易交渉は、第二次産業、及び、第三次産業(金融の自由化)では、フリー、フェアー、グローバルが進んでいるのである.そして、第一次産業(農畜産品)に関しては自然環境や国土の特質と関係している事から、最小限の保護政策がとられているのである.

この方向で、全体の品目の調整をしながら、多国間あるいは,二国間の貿易交渉が,これまで行われてきたのである.

一方、トランプ氏は、米国の貿易赤字が大きすぎる、これが雇用を奪っている、だから、関税を高くして、米国内に、工場誘致を図り、雇用を拡大するのだ、と言うのである.

本当に、そうだろうか.幾つか疑義を指摘したい.

①工場誘致と言っても、製品の組み立てくらいである.多くの部品まで、国内生産は出来ないと思う.従って、思ったほど、雇用は増えないのではないか.部品を輸入せざるを得なければ関税がかかって、製品の価格が挙がってしまうのではないか.

②工場製品の輸入関税、あるいは,部品の輸入関税は、米国も困るし、多くの部品製造国も困るのである.常に,すべて、国内製造ができないからである.又、技術革新の恩恵も受けにくくなるのである.

③また、工場誘致しても、米国の土地代、電力料金、人件費、等で、従来より価格が高くなり,あるいは、輸入品も関税で高くなる.結局、保護政策で製品価格が高くなれば,消費が落ち、結局、雇用機会がう失われるリスクもある.

④トランプ氏の思い通り、工場誘致が進んで、短期的に雇用が増えても、景気が悪くなったり、技術革新で、メーカーの勢力図が変わったり、国内の過当競争で工場淘汰が起これば、今度は大きな失業問題に発展するのである.

⑤輸入は雇用を奪うと言うが、必ずしもそうではない.輸入によって、輸入品の売上や関連ビジネスの拡大で、経済のパイが大きくなるのである.それによって,雇用も増えるのである.この様に、保護政策のリスクや輸入の効用(変化への対応)も見逃してはならないのである.

⑥結局、グローバル世界の中で、生産体制をどうするか、進出、撤退、は企業の利に適った選択で決められているのである.輸出先の雇用を増やす為に、工場進出をしているわけではないのである.これが自由経済の原理なのである.工場誘致をさせたいなら、保護主義の発想ではなく、進出企業の利に適った政策を出す事が必要だと思うのである.

⑦中国は米国の飛行機を数百機購入する条件として、中國に工場を作って,製造する事を条件にしたと言う.日本も、米国の飛行機を購入する条件に同じ事を言ったら、トランプ氏はどう答えるのだろうか.

ところで、アメ車が日本で売れないのは不公平があるからだ、とトランプ氏は言う.体操の試合で、米国が勝てないのは不公平があるからだと言っているようなものである.誤認しているのか,嘘を承知で言っているのかわからないが,これを前提に交渉(取引)を仕掛けてくる感じである.

明らかに、日本において、アメ車が売れない原因は車とそのアフターサービスが日本のユーザーニーズに合わないからである..欧州車は売れているのである.しかも、関税はかけていないのである.又,米国で日本車が売れるのは、人気があるからである.どこが不公平なのだろうか.

又、トランプ氏は雇用を確保する為に、車の工場を持って来い、と言っているが、現地すでに日本企業は米国に工場進出しているのである.現地生産の日本車がもっと増えると、米国の三大メーカーの復活はさらに遠のく可能性が高まるのである.

又,工場進出で米国内の競争が激しくなり、競争に負けたり、景気が悪くなれば、進出工場の撤退もあり得るのである.そうなると、従来なら貿易の減となるところが、今度は、米国内の失業問題になるのである.

それでも良いのだろうか.本心は米国のシンボルである三大メーカーの復活ではないのか、ならば、日本車に負けないユーザーニーズにあった車,サービスを考えろ、と叫ぶべきである.それとも、三大メーカーの凋落が続くと、苦し紛れに、今度は,日本車の工場は撤退しろ、日本車の輸入関税をもっと高くしろ、と叫ぶかもしれない.

トランプ氏はNAFTA契約国のメキシコからの輸入が、米国の雇用を奪っている,国境の壁の費用をメキシコが払わないなら、メキシコからの輸入に20%の関税をかけて壁代にする、と言うのである.日本も含めて,メキシコの工場で作って米国に輸出している企業は戦々恐々である.

しかし、米国がWTOも、NAFTA も脱会して、これをやるなら、メキシコ工場で製造している企業はメキシコから関税の安い国を経由して米国に輸出すると思う.米国の企業も,その製品を買うと思う.そうなると、壁代は出ないのである.

そうなると、トランプ氏はその経由国からの輸入品に高関税をかけざるを得なくなるが、結局、全ての国からの輸入品に高関税をかけるしかなくなるのである.勿論、世界からの報復関税を浴びる事になる.かくして、米国はみづから作った壁に取り囲まれて、自分の首を絞める事になるのである.

トランプ氏は関税を高くする事のむずかしさに気付いて、今度は、WTO、NAFTAを脱会せず、メキシコ産の車等の特定製品に高い付加価値税をかける手に出るかもしれない.実質の不買運動である.これはメキシコだけではなく、メキシコで製造している世界の企業、部品を提供している世界の部品メーカーを敵に回す事になる.

最後に、中国、日本、ドイツ、の対米輸出黒字国に、自国通貨安を批判し,その報復を考えるかもしれない..

どうやら通貨供給で為替誘導している事は不公平だと言っているようである.中国に対しては為替操作国だとして、早くから批判していたが、それに日本、ドイツを加えた感じである.

中國を除いて,変動相場制の米国はじめ世界の国は雇用対策や景気対策、あるいはデフレ対策で金融政策、財政政策をとったり,中央銀行が物価安定を目指して資金調整をやったりしているのである.日本の場合、日銀が物価の2%アップを目標に、資金調整をやっているのである.従って、トランプ氏の批判は当を得ていないのである.

為替レートの動きは、ドルの金利変動によっている.ドル高、円安は米国の金利によるところが大きいのである.勿論、ドル高は世界最強の経済大国として、基軸通貨として、信頼されている通貨であり、ドルの価値は世界経済の基礎になっているのである.米国第一主義はそんなドルの役割,責任はいらないとでも言うのだろうか.

元来、米国はドル高の下で、付加価値の低い製品は輸入し、武器や飛行機、ハイテク製品,あるいは、金融商品等の競争力のある高付加価値製品は経済発展国に輸出すると言う産業政策をとって来た.現に強い産業は世界企業になっているのである.一方、生活用品などに、米国産はほとんどないのも事実である.極めて経済原則に合致した考え方である.

その結果、米国においては、根強い事業家精神のもと、新技術、新産業が世界をリードし、産業の新人代謝を繰り返しているのである..ここ十年間を見ても、米国の世界的大企業の顔ぶれは、様変わりし、経済をけん引しているのである.米国の伝統である車産業も、例外ではなく、この新人代謝の中で、昔の勢力を失っているのである.

この米国は民主主義の元で、常に完全雇用を目指して来た.その為に、新技術、新産業、自動化、等で、常に産業の新人代謝をくり返しながら、経済を牽引し、雇用も流動化しながら雇用を確保しているのである.その結果、第二次産業から第三次産業への雇用の移動も、発生しているのである.勿論、世界の雇用も例外ではなく、国内の雇用先も流動化しているし、雇用ニーズにもとずいて、海外に雇用の場を求める傾向も出ているのである.

トランプ氏の米国第一主義の壁は経済原則の前ではスグ崩壊するのである.経済原理を無視した政策は長続きしないのである.各国の国益追及は明らかにトランフ氏とは違うのである.

トランプ氏は国内外の個別企業に米国内雇用拡大を求めて、口先介入しているが、大統領の言動として大問題である.米国民は、企業の独自経営に口を出す大統領をどう思っているのだろうか、もし、これで不利益が発生すれば、株主代表訴訟につながるのだが.

最後に、工場誘致と言っても、数年の時間がかかる.しかも,誘致の意思決定は将来の見通しが必要である.そんな事をトランプ氏の口先に従って実行しても良いのだろうかと、誰しもが疑心暗鬼になっているのである.中には、積極的にやりましょう、と言って、トランプ氏に迎合しつつ、トランプ氏の任期を見ながら、実際はのらりくらりする堅実な企業も見え隠れしているのである.

と突っ込みをしたくなるのである.

今回の就任式は選挙中の言動から,人種差別、女性蔑視が問題視され、反トランプ運動が展開され、就任式パレードの観衆は極めて少なく(報道では25万人程度)、しかも、白人だけだったと言う異常さもあったのである.現地報道陣のレポートによれば、トランプ支持者の集会の様だったそうである.

又、保護主義による米国第一主義をアジテートする事に対し,世界に不安を巻き散らしていると論評する人も多いのである.そんなことから、アンケートによれば、米国大統領の中で、最高の不支持率、最低の支持率になっていると言うのである.

勿論、トランプ氏は国を一企業の経営のように言うのは解かりやすいと評価する人もいる.しかし,国の経営は人も企業も、国家間も、利益相反の舵取であって、単純ではないし、その舵取りには、各国が共有できる、考え方(哲学)が必要になるのである.米国第一主義だけで,利益相反の舵取は出来ないと思うのである.そんな舵取りは眼中にないのかも知れないが.

このトランプ大統領の秩序より、価値観共有より、連携より、世界の安定より、世界の発展より、環境問題より、米国第一主義だ、米国の利益優先だ、と主張する事は、小国ならいざ知らず、世界一の経済大国、世界一の軍事大国が言えば、これは、強引で傲慢に映るのである.

この言動は確実に米国のステータスを落とし、付き合いの多い西側諸国との連帯や価値観に、ひび割れを起こすのである.12ケ国が,5年間、米国主導で検討し、苦労の末,まとめあげたTPPを、何の仁義もなく、簡単に反故にする姿勢に,怒りさえ覚えるのである.

マナーも配慮もない,人格も問われる大統領に信頼が生まれるだろうか.喜ぶのは、反米勢力だけである.4年間、何も起こらない事を願うのみである.

日本は、最近、英国に裏切られ、韓国に裏切られ、今度は米国に裏切られた感じであるが、是非とも「我利我利」ではなく、「我利利他」(自分の利益は相手の利益の中にある、WIN、WINの関係)の精神で、協調外交を展開して欲しいし、このオピニオンを世界に発信する良いチャンスかも知れないのである.

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