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2017.06.14

473 組織的犯罪処罰法案審議の感想

近々国会で成立するであろう組織的犯罪処罰法改正案(共謀罪)は一口で言うと、組織的重大犯罪の未然防止を目的に準備段階で処罰する法案である.日本の攻撃を準備している国への自衛権の発動問題と類似したテーマである.

この法案の成立で,遅ればせながら、国際犯罪防止条約(TOC条約)に加盟する事になり、国際的犯罪組織の情報が共有される事になる.

この法案に対し,野党は,不当捜査,不当逮捕,不当判決によって,「人権,プライバシー,表現の自由の侵害」や「一億総監視社会への道」だとして,戦前の「治安維持法」(思想弾圧)をイメージして,絶対反対の主張をしているのである.

そもそも、あらゆる法規制は権利侵害になるリスクを含んでいるが,それを排除する為に慎重な権利行使、手続き、最終的には裁判制度が存在しているのである.それでも、当法律の特徴からすると,捜査権の拡大による権利侵害が起こり得ると思う、だからと言って大義を否定する理由にはならないと思うのである.

ところで、自由,平等,人権と言う基本的権利も相互が衝突したり、これに危機防止と言う公共という概念が入ってくると,それぞれの権利が絶対的権利ではなく、優先度による強弱が付けられる事から,基本的権利は絶対的権利と言うより、相対的権利だと思うのである.

どうやら野党の主張は基本的権利を絶対的権利として,これを守る為に、政治的犯罪処罰法は反対だとの主張のようである.だとすと、組織的犯罪により、基本的権利のみならず,生命,財産が侵害された時,どう説明するのだろうか、完全に論理矛盾である.

与党は基本的権利や生命・財産を守る為に組織的犯罪防止法が必要だと言っているのだが、野党がどうしても反対するなら、対案を出さなければ建設的な議論異ならないのである.

以上が、短絡的に思い浮かぶ感想だが、ここで,そもそも論を整理してみたい.先ず、刑法には次の二つの概念があり、法制化の仕方が違うのである.

①既遂犯処罰の法律

これは犯罪が行われた時,処罰する法律だが,その法制化においては、「立法事実」によって罪状が定義されるのである.

(立法事実とは立法目的が合理的か,目的達成の手段が合理的かを問うものであり,実際の社会に存在する事実に適合しているかを判断する事を言う.)

発生した犯罪の犯人探しにおいては,ネット情報や防犯カメラなどの調査を行う事もあるし(裁判所の許可要の調査もある)、誤認逮捕もあるわけで、権利侵害は起こり得るのである.あらゆる法規制に内在するリスクである.

②準備処罰の法律

重大犯罪を未然に防止する為に,その準備行為を罰する法律である.この種の法律の特徴は犯罪前の処罰だから,上記の立法事実による法制化になじまないところがある.何が起こるかわからないからである.もし、立法事実による法制化をしようとすると、定義できる罪状が限定され,ザル法になる可能性がある.

更に特徴を言えば、重大犯罪の準備行為の発見には極めて広い範囲で,多面的な,しかも,恒常的な調査が必要になる.従って、いろんな捜査方法を屈指して,調査,捜査をすることになる.当然、権利侵害のリスクも大きくなる.よ従って,一層の慎重な捜査権力の行使が必要になるのである.

この二つの刑法の概念を念頭に、国会審議の感想を述べたい.

①既遂犯処罰とは違う法制化の審議がされていない.

上述のように、安保法制でも共謀罪法制でも、既遂犯処罰の法制化とは違う考え方の法制化が必要だと思う.

安保法制の議論で言えば,何が起こるかわからない事態への対応であり、立法事実による法制化はなじまないのである.いくら、自衛隊が出来る事を定義しようとしても、何が起こるかわからないから定義しようがないのである.定義したとしても、極めて断片的で、抽象的で、複雑で、しかも、規定していない事象も起こり得るのである.

この様にポジテブリストによる法制化は現場の判断や行動が混乱しかねないのである.従って、安保法制の検討は自衛隊が出来ない事(ネガテブリスト)を規定する方が合理的で明確になり,自衛行動の効果も上がるのである.

又、共謀罪法案の議論で言えば、同じ様に、何が起こるかわからない事態への対応であり,,組織的犯罪やその準備行為を定義する事はあまり意味がないのである.どんな行為もあり得るし、もくろんでいる犯罪の大きさや内容によっても、準備行為の内容も変わるのである.

繰り返すが、そもそも、安保法制も共謀罪法制も、転ばぬ先の杖としての法制度である.危機に対する保険のようなものである.法律が無かったから防げなかった、法律が無かったから無法状態になった,では済まされないのである.

したがって、本来なら,安保法制も共謀罪法制も、目的達成のためには、出来るだけ法律の網を広げておく必要がある.その為には,何が起こるかわからない事態を想定して出来る事(ポジテブリスト)を定義するより、出来ない事(ネガチブリスト)を定義した方が法律および現場の行動が明確になって、重大犯罪の未然防止力の強化になると思うのである.

しかし,昨今の安保法制、共謀罪法制の審議を聞いていると、既遂犯処罰の法制化と同じように,立法事実の有無とか,犯罪になる組織犯罪の定義とか,準備行為の定義とか、ばかりを議論していたのである.叉、感情的な世論を恐れもあったのか,法案が本質を外していたり、断片的になった感じを受けるのである.れで重大犯罪の未然防止の保険になるか心配するのである.

重要法案だけに、しかも、未然防止に権力の侵害もあり得る事から、もっと「YES BUT」(アクセルとブレーキ)の本質的な,建設的な議論をして欲しと思ったのである.

②野党は毎回、ワンパターンの行動をくり返しているだけである.

野党は日本の安全保障を強化しよう、組織犯罪を防止しよう、と言うと、必ず、憲法違反だとか、軍港主義への道だとか、基本的権利の侵害だとか、監視社会の到来だとか、治安維持方への回帰だとかを声高に言って反対するのである.

どうやら野党は法案の入り口で戦うだけで,悲惨な事態になる事には無関心の様である.その結果、悲惨な事態を防止する方法まで頭が回っていない感じを受けるのである.

結局,野党は,いつも,議論が終わっていない,強行採決されたと騒ぐのである.挙句に,あれだけ反対したのに選挙の時、廃案を公約に上げる事をしないばかりか,反対が間違っていたと反省する事もしないのである.

野党の一連の動きの目的は印象操作で大衆をミスリードし,政権打倒の運動を展開する事にあるようである.あるいは,そんな事ではなく、なんでも反対と言っていれば、なにがしかの得票が得られると考えているだけかも知れないのである.だとすると、野党の一連の動きは自身の保身術でしかないとも言えるのである.

いずれにせよ,与党も野党も,悲惨な事の未然防止と言う極めて重要な法案に対し、「YES OR NO」のバトルをくり返すのではなく,日本の為に「YES BUT」(アクセルとブレーキ)の建設的な議論をして欲しいと思ったのである.

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